IoT(Internet of things)技術とは、センサーや機器などが検知・収集したデータをインターネット経由で蓄積・分析したうえで、情報の提供や操作の指示といったフィードバックを返す技術です。日本語では「モノのインターネット」と呼ばれます。
IoTという言葉が登場したのは20年以上前のことです。従来の、人間が操作する「ヒト(コンピュータ)のインターネット」という概念に対する新たな概念として、1999年にイギリスのコンピューター科学者Kevin Ashton(ケビン・アシュトン)氏によって提唱されました。
モノ(機器/センサー)がインターネットに接続することで、今までできなかった価値を提供することや、新しいサービスを生み出すことができるようになります。具体的には以下のようなことができるようになります。
IoT技術を活用することで、遠くにある機器の状態を把握できます。IoT機器に取り付けられたセンサーはデータを収集し、それをパソコンやスマートフォンに送信して加工結果を表示します。例えば、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスは、ユーザーの心拍数や活動レベルをセンサー経由でスマートフォンに送信し、健康管理に役立てられます。また、河川に水位センサーを設置することで、遠隔地からでも水位を把握でき、災害対策を効率的にします。
IoT技術は、遠隔から機器を操作することが可能です。操作者がパソコンなどで命令をIoT機器に送信し、命令を受け取ったIoT機器が何らかの操作を行います。例えば、ユーザーがスマホで操作して照明のオン・オフやドアのロック・アンロックができるスマート照明やスマートロックがあります。産業用途では、工場内の機械を遠隔から制御するシステムなどで用いられています。
IoT技術は、物や人の動きを検知することが可能です。例えば、近年コンビニで導入が進んでいる無人店舗では、AIとIoT技術を最大限活用しています。店内のあちこちに設置した監視カメラで利用者と購買品を特定するほか、商品棚に設置された重要センサーや圧力センサーで商品を手に取ったかどうかを検知します。会計時もバーコード読み取り不要でスマホやカードで決済できスムーズに買い物ができます。
IoT技術は、センサー、通信、そしてクラウドの3つの要素から成り立っています。基本的な仕組みは以下のとおりです。
スマートスピーカーを例に、具体的に説明します。
IoT技術と似た概念としてM2M(Machine to Machine)という言葉があります。M2Mは、その名のとおり人間の介入なしに機器間で通信を行う技術です。両者ともにデバイス間の通信を可能にする技術のため混同されがちですが、構成要素や通信方式、用途などに違いがあります。
M2Mは基本的にデータを取得するセンサーと取得したデータに基づき操作する機器で構成されます。
無線通信を用いたインターネット接続を前提としたIoTと異なり、インターネットを経由しないローカル接続のケースや有線で接続するケースもあります。
主な用途は機器の制御や機器の情報収集です。エレベーターの遠隔監視や自動販売機の在庫管理などで利用されています。
現在は、IoT技術はM2Mを含む概念だと捉えられています。
IoT機器で用いられるセンサーは、多くが小容量データを送信する用途で用いられます。またボタン電池1個で年単位の稼働ができる省電力性が求められます。そのためIoT技術で使用される通信は、低速・低容量で電力消費が少ない通信が必要です。
IoT技術では、Bluetooth Low Energy(BLE)、Zigbeeなどの近距離無線通信のほか、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる通信群が多く使用されています。LPWAは省電力で長距離無線通信ができることが特長で、免許不要で使用できるアンライセンスバンドと、携帯電話の周波数帯を用いて免許が必要なライセンスバンドに大別できます。ライセンスバンドにはNB-IoTやLTE-Mがあり、キャリア各社でIoT向けのモバイル通信サービスとして提供しています。
IoT機器向けのデータSIMにご興味がありましたら、「 可能性は無限大!データSIMによるIoT・M2Mでビジネスを加速 」こちらの記事もあわせてお読みください。
ここでは、IoT技術を理解するために欠かせない「エッジコンピューティング」「AI」「センサー」をピックアップして紹介します。いずれもIoT技術の可能性を最大限に引き出すための重要な技術です。
エッジコンピューティングは、コンピュータネットワークの境界部分でデータ処理を行う技術です。一般的なIoT技術ではクラウドコンピューティングが使用されます。これは、センサーが検知したデータをすべてクラウドサーバーへ送信して、そこでデータの集計・分析などの処理を行う方式です。エッジコンピューティングでは、一部のデータ処理をインターネットに送信する前のデバイスで行うことで、通信容量を低減し、ネットワークの負荷を軽減できるのがメリットです。応答時間の短縮にもつながります。
AIには明確な定義がありませんが、大量に取得・蓄積したデータに対して高度な推論を行い、人間のような知的な判断を行うプログラムを指します。
AIは、IoT技術の活用において欠かせない技術です。IoT機器から収集された大量のデータを解析し、パターンを見つけ出し、予測を行うのがAIの役割です。例えば製造業では、AIとIoT技術の活用により、機械の音や振動といったデータから故障予測や異常検知を行っています。故障や異常が発生する前に対処できるようになり、製造ラインが停止する期間を短縮できます。
センサーとは、対象となる情報を収集してコンピューターが取り扱うことができる形式に変換する装置のことです。具体的には、温度、湿度、光、音、位置、動きなど、さまざまな種類のアナログ情報を取得してデジタル信号に変換します。
センサーにより情報を取得する技術をセンシングと呼びます。センシング技術の進歩により取得可能な情報の種類が増加し、その精度も向上しています。これによりIoT技術は飛躍的に可能性を広げています。
AI通訳機「ポケトーク」は、IoT技術を活用した翻訳サービスです。専用端末のボタンを押して話すだけで、85言語に対応した通訳ができます。 ※
端末が取得した音声データを楽天モバイルが提供するモバイル通信経由でクラウドサーバーへ送信し、そこで音声データをテキストに変換し、AIにより翻訳された結果を端末へ返します。スマホアプリと比較して起動が速いことや、クラウドサーバー側で翻訳するため常に最新のAI技術が反映されることが特長です。
訪日外国人客向けの接客や、ビジネスでの外国人とのコミュニケーション、外国語教育など、さまざまなシーンで活用されています。ポケトークの機能や特徴については、以下のサービスページと記事でより詳しく紹介しています。
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アルコールチェッカーの「アルキラーNEX」は、IoT技術を活用した業務用のアルコールチェックサービスです。圧力センサー、ガスセンサーを備えた検知器で対象者の呼気データを取得し、いつ・どこで・誰が・どの検知器でアルコールチェックしたかをクラウドで確認できます。
従来の簡易型アルコールチェッカーと比較して検知精度が高く、またコストも安く抑えられるのが特長です。顔認証およびワンタイムパスの認証により、なりすましや不正防止が可能になります。2023年12月1日より施行された改正道路交通法により、白ナンバー事業者のアルコールチェックが義務化されたことから需要が増加しています。
サービスの詳細については以下のソリューションサービスと記事でより詳しく紹介しています。
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企業にとってIoTは自社の競争力を高める手段としても有用な技術です。IoT技術を活用することで、期待できるメリットについて、前述の事例を踏まえながら解説します。
IoT技術を活用することで、今まで人手で行っていた作業を自動化できます。錦鯉の養殖場見守りサービスでは、車で往復3時間かけて会社から養殖場まで作業員が確認しに移動する必要がありました。IoT技術により、わざわざ現地に足を運ばなくても確認できるようになり、大幅な業務効率化につながりました。また効率化により作業員の数が少なくても対応できるようになり、省人化にもつながります。
IoT技術は、顧客体験の向上にも寄与します。飲食店混雑状況案内サービスでは、IoT技術でレストランの混雑状況を可視化することで、来店客はレストランが混雑している時間帯を避けることや、混雑していない店舗を選べるようになります。これにより「わざわざレストランフロアへ行ったのに混んでいて食べられなかった」「何時間も待たされた」といったことがなくなり、顧客満足度の向上につながります。
IoTデバイスから収集されたデータは、新たなビジネスチャンスを創出するための貴重な資源になりえます。
センサーが収集したデータはビッグデータとして役立てられ、そこから得た知見は新たな製品やサービスの開発・改良、マーケティング戦略の策定、業務プロセスの最適化など、ビジネスのさまざまな側面で活用することができます。
例えば、IoT技術を活用した無人コンビニは、店舗にとっては省人化、利用客にとっては利便性の向上が実現します。それだけでなく、収集されたデータを蓄積することで、商品を手に取ったけれども購入されなかった商品の存在などのPOSデータだけではわからなかった情報が可視化されます。そのようなデータを活用することで、新たなプロモーションにもつなげられます。
IoT技術の活用はビジネスや生活のさまざまな面で大きな利点をもたらしますが、それと同時に新たなリスクも生じます。特に、セキュリティは最も重要な課題の一つです。
IoT機器は、一度設置した後はあまり管理されずに置かれたままになっていることが多くあります。またパソコンと比較してセキュリティ対策が甘くなる傾向があります。このため、マルウェア感染や不正アクセスなどの被害にあったり、機器が乗っ取られてサイバー攻撃の踏み台になったりしてしまうケースも少なくありません。
国立研究開発法人情報通信研究機構の発表によると、2023年に観測されたサイバー攻撃関連の通信で最も多いのが、ルータやWebカメラを対象としたTelnet(23/TCP)でした ※ 。このことからも、IoT機器がサイバー攻撃の標的として頻繁に狙われていることがわかります。
過去には、ルータがマルウェアに感染してDDoS攻撃の踏み台として悪用される事例も確認されています。またIoT機器にはペースメーカーなどの医療機器や家屋設備、自動車なども含まれており、場合によっては大きな被害につながるリスクがあります。
被害を未然に防ぐためにも、IoT機器を使用する際には、複雑なパスワードを設定するほか常に最新のソフトウェアを使用するなど、適切なセキュリティ対策を講じることが必要です。
IoT技術により、世の中のあらゆるモノがインターネットに接続してデータの送受信や操作指示を行えるようになりました。業務の省人化や効率化、顧客満足度の向上、新たなビジネスチャンスの創出など、IoT技術から生まれる可能性は膨大で市場は年々拡大しています。決して大企業だけが取り組むものでもなく、アイデア次第で中小規模の企業でも革新的なサービスを生み出せる点もIoT技術の魅力です。
しかし、IoT技術を活用する際にはセキュリティには十分注意したいところです。適切なセキュリティ対策とデータ管理を行ったうえではじめて、IoT技術はビジネスの新たな可能性を開く強力なツールとなります。