スマートシティとはIT技術や蓄積したデータを活用し、地域で起こる課題を解決する取り組みです。住民はもちろん、進出している企業や訪問者に対しても良質なサービスを提供できることはメリットに挙げられます。政府はスマートシティについて、以下のとおり定義しています。
グローバルな諸課題や都市や地域の抱えるローカルな諸課題の解決、また新たな価値の創出を目指して、ICT 等の新技術や官民各種のデータを有効に活用した各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、社会、経済、環境の側面から、現在および将来にわたって、人々(住民、企業、訪問者)により良いサービスや生活の質を提供する都市または地域
ここからはスマートシティの特徴を、3つに分けて解説していきましょう。
スマートシティは技術の力で、人にやさしく住みやすい街を実現できます。一例を以下に挙げました。
個々のニーズに対して迅速・適切に対応することは、IT技術が発達する以前の時代では困難な場合もありました。令和の時代は個々のデータやアクティビティを取得し分析できる時代となったため、個々の状況や要望にあわせた対応をスピーディーに行えることは魅力的です。
スマートシティは地域の課題を、ITなどの技術により解決する取り組みです。幅広い分野のノウハウが求められますが、「行政も地域の事情にも精通し、ITなど技術にも詳しい」という組織は多くありません。
このためスマートシティの取り組みは、行政と企業が協力しながら進められます。行政などの公的機関や企業は、それぞれの立場からスマートシティの実現に取り組み、より良い社会を目指しています。
スマートシティの実現は、ITを扱えない方にもメリットをもたらします。例えば離島や山間部でもより良い医療を受けられ、迅速に薬を入手できます。またデマンド交通は、AI(人工知能)の特長を活かした移動手段を提供する方法の一つです。スマートシティによりニーズの無い予算を削減し、ニーズのある施策に集中的に投資して行政サービスの向上を図ることが可能です。
スマートシティが求められ、多くの自治体や法人がスマートシティに取り組む背景は、大きく6つに分けられます。さまざまな観点から、スマートシティが求められる理由を確認していきましょう。
現代は衣食住がひと通り満たされる一方で、さまざまな社会課題が顕在化しています。社会課題は、地域によって大きく異なることに留意しなければなりません。例えば大都市と郊外、離島や中山間地域では、それぞれニーズが異なります。また高齢化が進む地域と子どもが多い地域、ファミリー層が多い地域と一人暮らしの住民が多い地域でも、求められる施策は変わります。多様化するニーズにこたえる手段として、スマートシティが求められています。
多くの自治体では、高齢化や生産年齢人口の減少が進んでいます。地方では、深刻な過疎化となっている地域も少なくありません。人手が足りなければ、何でもマンパワーで解決するわけにはいかなくなります。
スマートシティはITをうまく活用することで、人手を減らしながらサービスを向上できます。人口減少地域でも住民のニーズに合ったサービスを提供できる有効なソリューションです。
高度経済成長の時代以降、日本ではさまざまなインフラや建物がつくられました。これらは定期的なメンテナンスが必要ですが、投下できる予算や担当できる人員は限られます。なかには、点検に危険を伴う箇所もあるでしょう。
管理すべき建物や設備が増えても、予算や人員を増やさずに済む仕組みが求められています。AIやドローンなどを活用して、人手も予算も増やさずに充実したメンテナンスを実現できるスマートシティは有効なソリューションの一つです。
平成以降、日本では災害の激甚化がクローズアップされています。住民の安全を守り安心して暮らすためには、早期の情報提供と避難の呼びかけが必要です。河川の水位など時々刻々と変化する状況を、迅速かつ正確に把握しなければなりません。
また避難所を開設した場合は避難者への対応を円滑に行うとともに、現状をタイムリーに把握する必要があります。これらの課題を解決する手段としても、スマートシティは注目されています。
日本の人口減少が課題となる時代、特別な施策を打たないままではどんどん人が流出してしまいます。少しでも人をつなぎ止め人口の増加につなげるためにも、まちの魅力度アップが求められます。
一方で人も予算も限られる時代ですから、人海戦術でふんだんにお金を使った施策は取りにくいでしょう。できるだけ人手をかけず、人件費を抑えて魅力度をアップする手段として、スマートシティは有効です。
これからの時代は、地球温暖化への対策をはじめとした環境への配慮も求められます。電力をはじめとしたエネルギーの有効活用を行い、二酸化炭素を抑える仕組みも求められるでしょう。「環境に配慮したまち」は、セールスポイントの一つです。スマートシティは、エネルギーの有効活用にも役立ちます。
スマートシティを実現することで、地域にさまざまな効果をもたらします。この記事では6つに分けて、どのような効果が得られるか解説します。
防犯や防災は、スマートシティの効果を実感しやすい項目です。まちに設置された防犯カメラは、犯罪の抑止効果が期待できます。万が一犯罪が起こった場合でも迅速な捜査を行い、犯人の検挙が可能です。
防犯カメラやセンサーは、危険を察知し迅速な避難につなげることにも役立ちます。蓄積されたデータを活用して災害リスクを可視化し、効果的な災害対策を実施できる点も魅力的です。
スマートシティは、インフラのメンテナンスにも貢献します。人手を減らしながら、効果的な点検が可能。優先度の高い場所から修繕を進められるため、限られたリソースでもまちの安全・安心を確保できます。
住民の健康を脅かす異変をいち早く察知し、適切な医療につなげることもスマートシティの効果に挙げられます。早期発見・早期治療により医療費が減少し、健康で長生きできる地域を実現できるでしょう。健康増進につながるメニューや、適切な介護サービスの提供も行えます。
スマートシティは、多くの方にスムーズな移動を提供します。車の無い方に向けたデマンド交通やMaaSは代表的ですが、将来は自動運転の実用化も期待できます。車を運転する方にはセンサーやAIを活用して交通渋滞を減らし、スムーズでストレスの少ない移動を実現します。
「物を運ぶ」という観点でも、スマートシティは寄与します。渋滞の緩和は、スムーズな物流を実現します。加えて以下のように、多彩な方法を使えることも魅力です。
物流の人手不足は「物流の2024年問題」と呼ばれるほど深刻です。スマートシティは品質を向上しながら人手を減らせる点で、有効なソリューションとなるでしょう。なお物流の2024年問題については、「 物流・運送業界の2024年問題とは?影響と解決に向けた取り組みを解説 」記事もご参照ください。
自治体にとって、税収の減少は悩みの種です。一方で住民の要望は多様化していますが、限られた財源ですべての要望に応えられるとは限りません。スマートシティはITの活用により、人的コストや金銭的コストを抑えながら良質なサービスを実現できます。費用が限られる自治体でも、住民にフィットしたサービスを提供しやすくなる有効な方法です。
スマートシティは住民の要望に沿ったサービスを提供し、安心・安全で子育てしやすく長生きを後押しするまちを実現できます。住みやすいまちとして注目されれば、他の自治体から移住する方も増えるでしょう。加えてビジネスを進めやすいまちには、進出する企業も増加します。住民や進出する企業が増えれば、活力あるまちを実現できるでしょう。
さまざまな効果が期待でき、社会解決の課題に貢献するスマートシティにも4つの課題があります。スムーズに進められるよう、以下に挙げる課題をクリアしておきましょう。
スマートシティの実現には、多少なりとも利用者のデータを取得することが欠かせません。セキュリティやプライバシーの確保は、安心できるスマートシティの必須条件です。以下のようなデータの使い方や管理方法は、住民や企業、来訪者の信頼を損ねることに注意しなければなりません。
情報の流出やシステム停止といった事態を招けば、住民や法人へのサービス提供に大きな支障が生じるおそれがあります。スマートシティが思わぬ不利益の引き金とならないよう、セキュリティやプライバシーを十分に確保することが重要です。
スマートシティを実現する際には、まちに機器などを一定数設置するケースも多いでしょう。システムの構築や導入も欠かせません。セキュリティの確保は必須ですから、無料のフリーウェアで済ませるわけにはいきません。
このため、初期投資額は大きくなりがちです。導入後もシステムや機器のメンテナンスに、一定のランニングコストがかかることを考慮する必要があります。
スマートシティの実現には、技術やノウハウを持つ企業の協力が欠かせません。自治体が関与する場合でも、データは企業のサーバーに保管されるでしょう。
スマートシティに関わる企業には、「公的な役割を担っている」という認識が求められます。得られたデータを自社グループで囲い込み、適時適切な情報提供を渋るなら、その企業は「公的な情報を私的利用して利益を得ている」とみなされるでしょう。これでは、スマートシティへの信頼も失われてしまいます。
スマートシティで提供されるサービスは、システムが正常に動作することを前提とするケースも少なくありません。もし以下のようなトラブルでシステムが止まれば、サービスの提供に支障が生じます。
上記のトラブルは住民に不便を強いるだけでなく、立地する企業の事業活動を止め、多額の損害を与えかねません。都市機能がストップするおそれもあります。スマートシティを円滑に運用するためには、インフラやシステムの信頼性、セキュリティを高めることが必要です。
スマートシティの実現には、ステークホルダーの協力が欠かせません。この記事では民間企業、行政、地域や住民それぞれの観点から、どのような役割を果たすべきか解説します。
スマートシティの実現に、民間企業が持つ技術の活用は欠かせません。特にITサービス企業には、安心してデータを活用できるサービスの提供が求められます。セキュリティの確保も求められるでしょう。
スマートシティに携わる民間企業には、社会の一員としての倫理的な役割も求められます。公的な事業に関わる以上、利益をあげるだけでは不十分です。事業で得たデータを、地域の向上に役立てる姿勢も求められるでしょう。行政や地域とのスムーズな連携も欠かせません。
スマートシティの実現において、行政が何らかの形で関与するケースも多いでしょう。特に自治体の単位で行われる場合は、主導的な役割を果たすことになります。住民や企業など、さまざまなステークホルダーの要望を聞きながら、目指すまちの理想像を目指して調整を進めることになるでしょう。
新しいプロジェクトでは、組織を横断した対応を要するケースもよくあります。スマートシティは医療や福祉、まちづくり、育児や介護、環境の保全やごみ処理など、さまざまな分野にまたがります。スマートシティの実現には、部署の垣根を越えて協力する姿勢も必要です。
スマートシティの成功には、地域や住民の積極的な関与も欠かせません。スマートシティで扱える施策は多数ある一方で、すべてを実現できるオールマイティーな方法を選ぶと過大なコストがかかります。地域や住民のニーズに合った施策を選ぶためには、計画の段階から積極的に関与し、意見や要望を提示することが重要です。
「より生活しやすく、仕事を進めやすい地域を、より低コストで実現する」わがままな要望に見えますが、スマートシティなら実現可能です。デジタル技術により、本当に必要な箇所にリソースを集中投下できます。また省力化は、ITの得意分野です。少ない予算や人員でも個々のニーズに合った施策を実施でき、まちの魅力度アップにつながるでしょう。
スマートシティには、さまざまな技術が使われています。他の事例をもとに、施策を立てることも良い方法の一つです。「 スマートシティはどのように実現する?使われる技術を紹介 」記事で解説していますので、あわせてお読みください。