物流・運送業界の2024年問題はどのような問題で、なぜ向き合わなければならない課題とされているのでしょうか。5つの観点から、その理由を解説していきましょう。
2024年問題は「働き方改革」による規制強化を要因とした、トラックドライバーが不足する問題です。厚生労働省は、2024年度になると約14%もの輸送能力不足が生じる可能性があると公表しています。
トラックなど配送に従事するドライバーが不足すると宅配便はもちろん、原料や部品、完成品、農産物や畜産物、水産物など、日常生活や企業活動で使うさまざまな物が届きにくくなります。事業活動を停滞させるおそれがありますから、誰もが自分ごととして捉えなければならない問題です。
実際にどのような規制強化がされるのでしょうか。トラックドライバーに対して2024年4月1日以降に適用される規制を、以下にまとめました。時間外労働の上限は労働基準法の改正により、その他の項目は厚生労働省「トラック運転者の改善基準告示」によります。
項目 | 規制内容 | 備考 |
---|---|---|
時間外労働の上限 | 年間960時間 | |
年間の拘束時間 | 3,300時間まで(最大3,400時間まで) | |
1カ月の拘束時間 | 284時間まで(最大310時間まで) | 284時間を超える月が3カ月を超えて連続しないこと |
1日の拘束時間 | 13時間以内(最大15時間以内) |
14時間を超える拘束時間は、週2回が上限
宿泊を伴う長距離貨物輸送の場合は16時間まで可(週2回まで) |
休息時間 | 最低でも連続9時間(連続11時間の休息を基本とする) | 宿泊を伴う長距離貨物輸送の場合は8時間以上で可(週2回まで) |
連続運転時間 | 4時間を超えないこと | |
休憩時間 | 30分以上。但し概ね10分以上の休憩を分割して取ることも可能 | 10分未満の運転の中断が3回以上連続しないこと |
規制強化後も、トラックドライバーは激務であることがわかります。しかし今の基準と比べると、拘束時間は年間216時間、1カ月当たり10時間、1日1時間短くなっています。また取るべき休息時間は、連続8時間以上から連続11時間以上(最低でも連続9時間以上)に増えました。ドライバー一人当たりの負担を、より軽くする規制強化となっています。
社会に大きな影響をおよぼすにも関わらず、なぜ国は労働基準法改正などの規制強化を行ったのでしょうか?それは過労死に代表される、長時間労働による健康被害を防ぐためです。時間外労働の規制は物流・運送業界に限らず、すべての業種が対象となっています。
厚生労働省では時間外労働時間が以下どちらかの数字に達すると、健康障害のリスクが高い状態になると公表しています。
働きやすい環境をつくることも、要因の一つです。日本は少子高齢化により働ける人口が減少しているため、労働条件の悪い仕事には応募者が集まりにくくなっています。物流・運送業界は長時間労働が恒常化している代表的な業界ですから、悪いイメージが定着してしまうと担い手がますます減少する事態に陥りかねません。
最近2024年問題を耳にした方のなかには、ドライバーへの規制は突然決まったように思う方もいるかもしれません。しかしこの規制強化は、2019年4月(中小企業は2020年4月)から実施されています。物流・運送業界への施行は5年間猶予されていたため、2024年4月から適用開始となることがあらかじめ決まっていたわけです。
加えて自動車運転業務の規制は以下のとおり、他の業界よりも緩くなっています。
多くの業界では、時間外労働の上限は月45時間(年間360時間)以内、特別な事情がある場合でも年間720時間以内(月100時間未満、複数月平均80時間以内)となっています。物流・運送業界の規制が緩いにも関わらず対応に苦慮する企業が多いことは、事業環境の厳しさを示すものといえるでしょう。
とはいえ施行まで5年間あったわけですから、以下のように何らかの対策を取った企業はあります。
働き方改革関連法の成立から施行までの間に対策を整えた企業とそうでない企業の間で、差が広がることは否めません。
時間外労働の上限規制等、法令に違反した荷主や運送会社は、不利益を受ける可能性があります。運送会社が違反した場合は、以下のペナルティが定められています。
一方で荷主が法令違反に関与した場合で、国土交通省による働きかけや要請があっても改善しない場合は、荷主名が公表される可能性があります。もし国から公表されれば大きく報道され、社会的信頼を失うでしょう。業績にも大きな悪影響を与え、事業の継続が危うくなりかねません。
もし2024年問題を放置すると、社会のさまざまな面に悪い影響が出ます。代表的で影響が大きい6つの項目を取り上げ、どのような影響が現れるのか確認していきましょう。
物流を利用する側にとって、2024年問題は「運べる量や頻度が減る問題」といえるでしょう。運送会社はより少なくなったリソースを有効活用し、荷物を運ぶことになります。このため以下に挙げるような、サービスの低下が起こるかもしれません。
今よりも荷物の発送が不便になることは、起こり得る代表的な影響の一つです。
Sドライバー一人が働ける時間、運べる量に限りがある以上、たくさん運びたい運送会社は多くの従業員を雇わなければなりません。人件費も増しますから、経営を成り立たせるためにも荷物の運賃を上げることになるでしょう。この上昇分は、さまざまな製品の価格にも転嫁されることになります。
運送会社のリソースは、無限ではありません。荷物が集中した場合は、急ぎの荷物でも受付を断られたり、遅延の了承を求められたりするかもしれません。このため必要なものが必要なタイミングで届かず、工場の臨時休業や業務の一部停止など、事業運営に支障をきたすおそれがあります。
企業のなかには完成品だけでなく、部品などの中間生産物を製造する会社も多く存在しています。代表例として、自動車関連の業界が挙げられます。
トラックは、部品を他社に送るうえで重要な役割を担っています。部品が届くタイミングが遅れれば、製品をつくるスケジュールも伸ばさなければなりません。顧客への納期が延びる、新製品を投入するタイミングが遅れるなど、事業運営において大きな影響をもたらすでしょう。
2024年問題には、ドライバーの勤務時間を規制する内容が含まれています。一方でドライバーのなかには、「体力には自信があるので、稼ぐためにできるだけ残業したい」という方もいます。歩合給のある職場で働くドライバーは荷物を多く運べば自身の収入もアップしますから、長時間労働へのインセンティブがあるわけです。
2024年4月1日以降は、ドライバー自身が「できるだけ多くの時間を仕事に費やし、頑張って稼ぎたい」という意欲があっても、法令により勤務時間が制限されます。これまでがむしゃらに体力が続く限り懸命に働いていたドライバーは、収入の減少に直面するかもしれません。
2024年問題は、企業の収入減というデメリットをもたらす可能性もあります。運送会社の場合は1人が働ける時間に上限がかけられますので、収入を増やそうとすれば人員を増やすことになります。逆に欠員補充ができなければ、収入減に直面してしまうでしょう。
一方で荷主も、運賃の上昇や運送会社を見つけにくいといった問題に悩まされるかもしれません。運賃の上昇は、利益の減少につながります。また運送会社を見つけにくい企業は販売数の減少につながるため、売上も減ってしまうでしょう。
2024年問題は、悪い影響ばかりではありません。働き方改革による法令改正は社会課題の解決が目的ですから、施行により社会に対して良い効果ももたらします。期待される効果のなかから3つの項目を取り上げ、内容を解説していきましょう。
ネット通販のなかには、送料無料をうたうサイトもあります。このような場合でもドライバーの人件費等、運ぶための費用はかかっています。今後は低料金での配送を求めにくくなるでしょう。「最速での配達を、より安い料金で」と依頼する荷主の輸送は、断られ続けるかもしれません。
「送料は無料ではない」「物流には適正な費用を支払う必要がある」という認識は、広がりつつあります。適正な送料を支払い余裕を持って差し出す認識が共有されることは、2024年問題により期待される効果の一つです。
物流はトラックが代表的ですが、物を運ぶ役割は他の交通機関でも担っています。実際に、トラック以外で運ばれている荷物も少なくありません。一例を以下に挙げました。
鉄道や船、航空機など、トラック以外の交通機関にとって2024年問題はビジネスチャンスとなるでしょう。トラックに頼らない輸送が進むことは、輸送手段の多様化を進めるうえでメリットに挙げられます。それぞれの輸送手段については、「他の交通機関を活用して運ぶ」で詳しく解説します。
トラックドライバーの負担が軽減されることも、見逃せないメリットの一つです。とりわけ配送先の都合でトラックを待機させる「荷待ち」は、ドライバーの大きな負担としてクローズアップされています。なかには荷待ちで6時間も待ったドライバーもいること、さらには棚入れや検品、家具の組み立てなど、運転と関係ない作業もドライバーに行わせている事例が公表されています。
国土交通省が公表した「トラック輸送状況の実態調査結果(概要版)」によると、2021年1月~3月における荷待ち時間の平均は1時間34分と、長時間におよびます。運転だけで済み荷待ちの無い仕事と、荷待ちのうえに他の作業もある仕事がある場合、同じ料金なら前者のほうを選びたくなるものです。
今後は、ドライバーや運送会社が仕事を選べる時代が来るでしょう。より良い条件の仕事を選ぶことで、トラックドライバーの負担も軽減されます。
2024年問題は、放置すると企業や社会に大きな影響をもたらします。起こり得る課題の解決や新たなビジネスチャンスを獲得する目的で、社会ではさまざまな取り組みが行われています。
ここからは8つの項目に分けて、2024年問題に対する取り組みを確認していきましょう。取り組める内容があれば、貴社でもぜひ実践してください。
毎日自宅に帰れる職場は、頻繁に泊まり勤務が行われる職場と比べて魅力的です。長距離を輸送する場合は途中で運転手が交代する「中継輸送」を行うことで、日帰り勤務が可能となります。
交代方法にはドライバーだけ交代する、トレーラーのヘッド交換をするといった方法が挙げられます。またルート途中の物流センター等で、貨物を積み替える方法も選べます。代表的な例を、以下に挙げました。
輸送区間 | ドライバーが交代する拠点の例 |
---|---|
首都圏⇔京阪神 | 静岡・浜松・山梨・名古屋のいずれか |
神奈川⇔福岡 | 大阪 |
大阪⇔山口・福岡 | 広島 |
神奈川⇔宮城 | 栃木 |
中継輸送は、中小企業でもあきらめる必要はありません。自社で中継輸送を行えるほどの拠点や台数、人員がない企業でも、他社と共同して中継輸送を行った事例があります。
トラック以外の交通機関を活用して運ぶことも、重要な取り組みに挙げられます。ここでは3つの運び方を取り上げ、詳しく解説していきます。
トラックから船や鉄道に輸送手段を変える「モーダルシフト」は、温室効果ガスの排出を減らす方法として注目されています。国土交通省では2021年度における輸送手段別の二酸化炭素排出量を、以下のとおり公表しました。
輸送手段 | CO2排出原単位(g-CO2/トンkm) |
---|---|
自家用貨物車 | 1124 |
営業用貨物車 | 216 |
船舶 | 43 |
鉄道 | 20 |
同じ物を運ぶなら、船は自家用貨物車のおよそ26分の1、鉄道ならおよそ56分の1の環境負荷で運べるわけです。特定の地域あてにまとまった荷物を送る場合は、船や鉄道貨物の利用も有効です。
速さを求める場合は、航空機の活用が効果的です。荷物の搭載量に制限がある、危険物を搭載できない等の制限はあるものの、多種多様な荷物を運べます。特に小さくて高価な物品に対するコストパフォーマンスが高いことは魅力的です。
一般的には航空会社に依頼し、旅客便の貨物スペースや貨物専用機に搭載するといった方法が挙げられます。なかには自前で貨物専用機を用意し、航空会社に委託して運航する運送会社もあります。
近年では乗合バスや新幹線、特急列車などの一部スペースを活用して荷物を輸送する「貨客混載」も行われるようになりました。トラック輸送の負荷を軽減するほか、社会課題の解決や顧客のニーズにこたえる目的で活用されています。
貨客混載の方法 | 社会課題や顧客のニーズ |
---|---|
乗り合いバスへの搭載 | 過疎化やドライバー不足への対応 |
新幹線や特急列車への搭載 | 輸送時間の短縮やドライバー不足への対応 |
普通列車や高速バスへの搭載 | 過疎化、ドライバー不足への対応、輸送時間の短縮のうち1つ以上 |
貨客混載はドライバーの負担を増やさずに多様なニーズにこたえられるという点で、2024年問題を解決する方法の一つとなるでしょう。
中山間地域では人口密度が低く、人家がまばらに存在しているケースが多いです。このため荷物1個当たりの輸送距離は、どうしても長くなりがちです。限られた時間のなかで荷物を運び切れるかどうか、四苦八苦する事業者も多いのではないでしょうか。
2023年の時点では実証実験の段階ですが、ドローンを活用して中山間地域に物資を輸送する取り組みが行われています。この取り組みが本格化すれば、車での配送は集落など人家がまとまったエリアへの輸送に、離れた場所にはドローンで配送するといった使い分けができるでしょう。
荷捌き施設に来る運送会社がわかっている場合は、トラック予約受付システム(バース予約システム)を導入してトラックごとに時間を割り当て、荷待ち時間の短縮につなげる方法があります。トラックドライバーは事前にスマートフォン等で予約することで、待ち時間なく入場しスピーディーに荷物の搭載や積み下ろしができるわけです。
システムの導入は、施設側にもメリットがあります。トラックの発着を分散できるため、バースを効率的に運用できるでしょう。作業員を計画的に配置できるほか、近隣に与える騒音も抑えることが可能です。
2023年6月には経済産業省・農林水産省・国土交通省の連名で、荷待ちや荷役作業等の時間を2時間以内(さらには1時間以内)に短縮すること等を求めています。IT技術を活用してトラックドライバーの負担を極力減らすことも、2024年問題の解決策として有効です。
企業の規模によっては運送会社と協業し、物流を効率化する方法も選べます。楽天は日本郵便と協業し、「JP楽天ロジスティクス」を設立しました。JP楽天ロジスティクスは、楽天市場で販売される商品を店舗からお預かりして配送する「楽天スーパーロジスティクス」(RSL)等を運営しています。単なる物流の効率化だけでなく、より便利なサービスの提供にも取り組んでいます。
RSLの活用は、出店企業にもメリットがあります。サービスの内容を落とすことなく、低価格での配送が可能です。注文が続々と入った場合でも、大量の荷物を集荷してもらえるか不安に思う必要はありません。出店者は販売活動に注力でき、物流を気にせず売上を伸ばすことが可能です。
2024年問題への対応には、荷物に関する改善・改革も有効です。例えば包装のサイズを小さくするとスペースを取らずに済むため、今までよりも多くの荷物をトラックに積めます。同じ量の荷物も、より少ない台数で運べるでしょう。軽い物や小さい物に対して、特に効果的な方法です。
またパレットの活用も、荷物の積み込みや荷下ろしを行う「荷役作業」の時間短縮に有効な方法です。荷物を1つずつ手で扱う方法は体への負担が大きく、時間もかかります。あらかじめ荷物をパレットの上に積んでまとめておくことでフォークリフトでの荷役が可能となり、荷役作業の大幅な短縮を実現します。トラックドライバーの負担も減らせるでしょう。
IT企業などモノの製造や流通に関わらない企業でも、2024年問題の解決に貢献できる方法はあります。配送回数を減らすことは、代表的な方法の一つです。
ネット通販で購入する場合、一定額未満の注文は送料を加算するショップが多いです。このため在庫が少なくなったタイミングでその都度注文するよりも、まとめて注文し発注当たりの単価を上げることで、以下の効果を得られます。
楽天市場の「39ショップ」も、注文ごとの単価を上げて荷物の数を減らす取り組みとして活用できます。送料無料のラインが税込3,980円以下であれば、「39ショップ」の表示が可能です。少量・少額の注文を減らすことで、運送会社への負荷を下げることができるでしょう。
再配達を減らすことも、有効な対応方法の一つです。同じ場所を何度も訪問せずに済むためドライバーの負担が減るほか、同じ時間でより多くの荷物を配達できる効果が見込めます。
国土交通省は、2023年4月の宅配便再配達率を約11.4%と公表しました。再配達率は減少傾向にあるものの、10個に1個以上の荷物は1回の訪問で配達を完了できていません。ドライバーの負荷を下げるためにも以下の方法を積極的に取り、再配達を極力減らしましょう。
2024年問題は、物流・運送業界だけ対応すればよいわけではありません。荷主や荷物を受け取る側も、積極的な取り組みが必要です。
物流が滞ると、多くの方が困ります。「運送会社と国がなんとかすれば良い」と思わず、それぞれの立場で取り組むことが重要です。