働き方改革は、日本社会が直面している少子高齢化や生産年齢人口の減少といった課題に対応するために推進されている取り組みです。その目的は、一億総活躍社会を実現し、誰もが活躍できる社会を目指すことにあります。
ここでは、以下の2つに分けて解説します。
それぞれ詳しくみていきましょう。
働き方改革とは、「一億総活躍社会」の実現に向けて、働く人それぞれの事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現するための改革のことです。つまり、性別や年齢、障害の有無などに関わらず、誰もが自分の能力を発揮し、働くことができる社会を目指すことです。
この働き方改革の取り組みでは、例えば女性の活躍推進に力を入れています。女性が働きやすい環境を整備することで、出産・育児による離職を防ぎ、働き手を確保します。また、出産によって働けなくなることを防げれば、少子高齢化の進行にも歯止めをかけることが期待されているのです。
日本では現在、生産年齢人口が総人口を上回るペースで減少しています。このままでは、国全体の生産力や国力の低下が避けられない状況です。
実際に、労働力人口は2040年には5000万人程度まで減少すると予測されており、そのなかで増加する高齢者を支えていかなければなりません。
こうした状況に対応するためには、国を挙げて生産性を向上させる必要があります。しかし、主要7カ国のなかで日本人の労働生産性は最下位となっています。その要因の一つが、多様で柔軟な働き方への対応の遅れです。画一的な働き方を強いることで、優秀な人材を活用しきれず、生産性の向上につなげられていないのです。
働き方改革は、こうした日本の労働環境が抱える課題の解決を目指しています。多様な働き方を可能にし、労働参加率を高めることで、一人ひとりの能力を最大限に引き出し、生産性の向上につなげようとしています。
今後、少子高齢化がさらに進行するなかで、働き方改革の重要性はますます高まっていくでしょう。企業も従業員も、働き方改革への理解を深め、積極的に取り組んでいくことが求められています。
働き方改革を推進するために、働き方改革関連法が施行されました。この法律によって、労働者の働き方に関するさまざまな制度が改正されています。
ここでは、厚生労働省のリーフレット「 働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~ 」を参考に主要な改正点について紹介します。それぞれ詳しくみていきましょう。
働き過ぎを防止し、労働者の健康を守るとともに、多様なワークライフバランスを実現するため、時間外労働の上限が規制されました。
原則として、残業時間の上限は月45時間、年360時間となります。これは1日当たり約2時間相当の残業です。臨時的な特別の事情がある場合でも、労使が合意すれば年720時間まで上限を延長できますが、複数月平均で80時間以内、単月では100時間未満に制限されます。
また、原則である月45時間を超えられるのは年間6カ月までです。ただし、上限規制の適用が猶予される事業・業務も存在します。
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後から翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間を確保する仕組みのことです。
この制度の導入を企業の努力義務とすることで、労働者の十分な生活時間や睡眠時間を確保する狙いがあります。
企業に対して、労働者の年次有給休暇を年5日間以上取得させることが義務付けられました。
これまでは労働者の自発的な申し出がなければ取得できませんでしたが、今後は使用者が労働者の希望を聞き、希望を踏まえたうえで取得時期を指定する必要があります。
月60時間を超える残業に対する割増賃金率が、25%から50%に引き上げられました。これにより、大企業だけでなく中小企業でも、月60時間を超える残業は割増賃金率50%の適用対象となります。
働く人の健康管理を徹底するため、企業に労働時間の状況を客観的に把握することが義務付けられました。裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての労働者が対象です。改正前は、裁量労働制適用者は把握義務の対象外でしたが、健康確保の観点から法律で義務化されました。
また、長時間労働者に対する医師による面接指導を確実に実施することも求められています。
柔軟な働き方を可能にするため、フレックスタイム制の仕組みが拡充されました。具体的には、労働時間の調整が可能な期間(清算期間)が、1カ月から3カ月に延長されます。
これにより、子育てや介護をしながら働く人も、より働きやすくなります。例えば、6〜8月の3カ月のなかで労働時間の調整ができるため、8月の労働時間を短くして夏休み中の子どもと過ごす時間を作ることも可能です。
高度な専門的知識を持ち、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象に、高度プロフェッショナル制度が新設されました。
本人の同意と、労使委員会の決議を前提に、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講じることで、労働基準法の労働時間、休憩、休日、深夜割増に関する規定が適用除外となります。ただし、対象者は一定の年収(少なくとも1,075万円)以上の高度専門職のみに限定されます。
産業医の役割と権限を強化し、その活動の実効性を高める改正が行われました。
事業者は、産業医に対し、労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提供しなければなりません。また、産業医から受けた勧告の内容を、衛生委員会に報告することで、健康確保対策の実効性を高めることが求められます。
加えて、労働者が安心して事業場での健康相談等を受けられるよう、労働者の健康情報の適正な取り扱いに関する指針も定められました。
同一企業内における正社員と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止されます。賃金だけでなく、教育訓練や福利厚生など、あらゆる待遇についての不合理な格差が禁止の対象となります。
裁判で不合理性が問われた場合の判断基準となる、均等待遇・均衡待遇の規定が整備されました。
非正規雇用労働者は、正社員との待遇差の内容や理由について、事業主に説明を求めることができるようになりました。事業主には、非正規雇用労働者から求めがあった場合、正社員との待遇差の内容や理由を説明する義務が生じます。
説明を求めたことを理由とする不利益取り扱いは禁止されており、労働者は安心して説明を求められます。
非正規雇用労働者と事業主との間の紛争を解決するため、都道府県労働局において行政ADRの仕組みが整備されました。
行政ADRでは、無料かつ非公開の話し合いの場で、紛争解決に向けた支援が行われます。事業主と非正規雇用労働者との間の紛争を、円滑に解決することが期待されています。
働き方改革関連法による改正は多岐にわたりますが、いずれも労働者の健康確保と、多様で柔軟な働き方の実現を目指すものです。企業には、これらの改正内容を理解し、適切な対応を取ることが求められます。
働き方改革は、日本の労働環境を大きく変える可能性があります。しかし、実現には課題を乗り越えなければいけません。
ここでは、働き方改革の浸透における課題、社会に与える影響、そして今後の方向性と可能性について解説します。
働き方改革を推進する上で、克服すべき主要な課題は以下の3点です。
長時間労働の解消と非正規雇用と正社員の格差是正については、働き方改革関連法でも取り上げられ改善させる動きがあります。また、労働人口不足の解消のためには、多様な働き方を推進し、フレックスなど柔軟な働き方を進めていかなければいけません。
働き方改革が進めば、柔軟な働き方やテレワークの普及により、育児や介護と仕事を両立しやすくなります。多様化する働き方のニーズに対応できるようになるからです。
働き方改革が社会にもたらす効果は、大きく分けて2つあります。
人的資本の強化や効率的な働き方の実現により生産性が向上する一方で、多様な人材の労働参加も拡大します。これまで働くことが難しかった人々が職場に参画できるようになるのです。
働き方改革のさらなる進展により、就労機会が広がる可能性があります。また、副業を行う人も増加し、個人が複数の仕事を持つことで、スキルの向上や収入の多様化によるリスク分散のメリットも期待できます。
そのため個人主導のキャリア形成が可能です。会社に依存するのではなく、自らの意思でスキルを磨き、キャリアを積んでいくことができるようになっていきます。
働き方改革は、日本の労働環境を抜本的に変える可能性があります。課題を一つひとつ乗り越え、多様で柔軟な働き方を実現することで、個人も企業も、より活躍できる社会の実現を目指すことが大切です。
働き方改革は、企業と従業員の双方にとって大きなメリットをもたらします。
働き方改革によって期待されるのは、以下の3つの効果です。
それぞれ詳しくみていきましょう。
働き方改革の推進により、労働時間の短縮が実現すれば、従業員にゆとりが生まれます。適度な休息を取ることで、精神的・肉体的に充実した状態で業務に従事できるようになります。その結果、従業員は高い集中力を発揮し、業務の効率化や生産性の向上につなげることが可能です。
充実した休息は、従業員のウェルビーイング(幸福度)を高め、仕事へのモチベーションにもつながります。企業にとっても、生産性の向上は大きなメリットといえるでしょう。
ウェルビーイングについては、「 ウェルビーイング(Well-being)とは?注目されている理由と意味をわかりやすく解説 」記事でも詳しく紹介しています。
働き方改革によって、仕事以外の時間を充実させ、ワークライフバランスを改善できます。
例えば、副業を通じて自分のスキルを活かしたり、家族との時間を大切にしたりと、仕事とプライベートのバランスを取ることが可能です。
ワークライフバランスが整うと、従業員の満足度は高まり、仕事へのパフォーマンスにも良い影響を与えます。また、企業にとっても、従業員の定着率向上や優秀な人材の獲得につながるため、大きなメリットがあります。
ワークライフバランスについて、さらに知りたい方は「 ワークライフバランスはどんな意味?メリットや有効な取り組み、活用事例を紹介 」記事をご確認ください。
働き方改革では、正規雇用と非正規雇用の格差是正が重要なテーマの一つです。格差をなくすことで、雇用形態に関わらず、すべての従業員がいきいきと働ける環境づくりが可能になります。
また、働き方の多様化は、高齢者や子育て中の女性など、これまで労働市場から離れていた人材の活躍の場を広げます。多様な人材を受け入れ、その能力を発揮してもらうことで、企業は新たな視点やアイデアを取り入れ、イノベーションの創出につなげられるでしょう。
働き方改革は、企業と従業員が Win-Win の関係を築くための重要な取り組みです。生産性の向上、ワークライフバランスの改善、多様な人材の活躍促進といったメリットを実感できるよう、着実に働き方改革を進めていくことが求められています。
企業が取り組むべき働き方改革の具体策は、以下の3つです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
長時間労働を是正するためには、業務の見直しと効率化が重要です。不要な業務を削減し、ITツールやAIなどを活用し、業務の自動化や省力化を図っていきます。
また、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を厳守し、労働時間を適切にマネジメントすることも必要です。ただし、単に労働時間を減らすだけでは、従業員のモチベーションが低下するおそれがあります。業務の効率化と並行して、従業員のエンゲージメントを維持・向上させる取り組みも必要です。
従業員エンゲージメントについては、「 従業員エンゲージメントとは?意味や重要性、高める効果的な方法を紹介 」記事で詳しく紹介しています。ぜひ、ご確認ください。
働き方の多様化を推進するためには、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を導入することが有効です。特に、テレワークの活用は、ワークライフバランスの改善や生産性の向上につながります。
企業は、テレワークに必要なインフラやツールを整備し、従業員がスムーズにテレワークに移行できる環境を整えましょう。また、テレワークにおけるコミュニケーションやマネジメントのルールを明確化すると、スムーズな運用を実現できます。
働き方改革を実現するためには、社内の業務規程を見直し、従業員にとって働きやすい環境を整備する必要があります。
例えば、賃金や手当を含めた評価制度の見直しを行い、公平性と透明性を確保しましょう。また、副業を禁止している場合は、一定のルールの下で副業を認めるなど、柔軟な対応も検討してください。
業務規程の見直しの際には、従業員の意見を積極的に取り入れて働く人の視点に立った改革を進めることが大切です。
企業が働き方改革に具体的に取り組むと、従業員の満足度やエンゲージメントの向上、生産性の向上といった効果を実感できます。自社の状況に合わせて、効果的な働き方改革を進めていきましょう。
働き方改革は、企業と従業員の双方にとってメリットのある取り組みです。生産性の向上やワークライフバランスの改善、多様な人材の活躍促進など、さまざまな効果が期待できます。
しかし、働き方改革の進め方は、企業の規模や業種、抱えている課題によって異なります。
特に、大企業と中小企業では、利用可能なリソースや対応すべき課題が大きく異なるため、画一的なアプローチではなく、自社の状況に合わせた働き方改革の戦略を立てることが重要です。
また、働き方改革の取り組みを着実に進めるためには、トップのリーダーシップと従業員の理解・協力がなければできません。社内の意識改革を進めながら、一丸となって働き方改革を推進していく体制を整えることが大切です。
自社に合った働き方改革の進め方を検討し、実行することで、企業の持続的な成長と従業員の満足度向上を実現することができます。