ウェルビーイングという言葉は聞いたことがあるけど、詳しい意味はわからない方もいるのではないでしょうか。
そこでウェルビーイングとは何かを知ってもらうために、以下の2つに分けて解説します。
それぞれ、詳しくみていきましょう。
ウェルビーイングは、心身の健康や幸福感、自己実現といった個々の生活の質を高める状態を指します。
「良い=Well」と「状態=Being」からできた言葉です。
世界保健機関(WHO)では、「健康とは、単に疾病がない状態ということではなく、肉体的、精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある(Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.)」と定められています。
具体的に説明すると、ウェルビーイングには物理的な健康だけでなく、心の健康や社会のつながり、達成感や幸福度が含まれます。それらすべてが揃っていないと、ウェルビーイングは実現できません。
ウェルビーイングと似た言葉に、「ウェルネス」と「ハピネス」があります。これらの言葉の意味は似ていますが、厳密には違いがあります。
ウェルビーイング | ・健康、幸福感、人間関係、自己実現など、さまざまな要素を包括的に含んだ概念 |
ウェルネス |
・主に肉体的な健康と精神的な健康に焦点を当てた概念
・病気になりにくい体づくりや、ストレスに負けない心の強さを養うことを目的としている |
ハピネス |
・幸福感や心の満足度、喜びのことを指す
・一時的な感情であり、恒常的なものではない |
ウェルビーイングでは、さまざまな要素を含んだ概念なのに対し、ウェルネスでは健康であることが重要です。ハピネスは、好きなものを食べたり楽しいイベントに参加したりして一時的にハッピーな気分になることであり、恒常的なものではありません。
ウェルビーイングを実現するためには、身体と心の健康を保ちながら、自分らしい幸せを追求していくことが、第一歩となります。
近年、ウェルビーイングが注目されている背景には、さまざまな要因があります。ここでは、ウェルビーイングが注目される背景を以下の3つに分けて解説します。
それぞれ詳しくみていきましょう。
従業員のウェルビーイングが高まることで職場の労働生産性が向上すると考えられています。
具体的には、以下のような理由があります。
モチベーションの向上 |
・心身共に健康で、仕事への満足度が高いと自然とモチベーションが高まる
・高いモチベーションで仕事に取り組むと生産性や品質の向上につながる |
創造性の発揮 |
・ストレスなく自己実現できていたり自己肯定感が高い状態ではクリエイティブな発想が生まれやすい
・新たなアイデアや問題解決策が生まれると企業の競争力強化につながる |
欠勤率の低下 |
・心身の健康状態が良好であれば、病気やケガによる欠勤が減る
・欠勤率の低下は生産性維持に役立つ |
コミュニケーションの活性化 |
・ウェルビーイングが高いと職場でのコミュニケーションも積極的になれる
・活発なコミュニケーションは情報共有やチームワークの向上につながる |
顧客満足度の向上 |
・従業員のウェルビーイングが高いと顧客対応の質も向上する
・高品質なサービスを提供することで、顧客満足度が高まり企業のイメージアップや売り上げに貢献する |
従業員のウェルビーイングを高めることは、個人のパフォーマンスだけでなく、組織全体の強化にもつながるため、ビジネス面でのメリットも大きいと考えられています。
働き方改革はウェルビーイングが注目される背景の一つです。具体的には、以下のような理由がウェルビーイングと関係します。
長時間労働は社会問題にもなっており、働き方改革では是正が重要な目標となっています。心身の健康を損なう恐れが長時間労働にはあり、ウェルビーイングを低下させてしまうからです。
対策として、仕事とプライベートの調和をとれるようなフレックス制やリモートワークなどの柔軟な働き方の導入が推し進められています。
従業員のウェルビーイングを重視する風土を根付かせる働き方改革は、企業文化を良好に変化させるでしょう。
ウェルビーイングは、新型コロナウイルスの影響でも注目を集めました。新型コロナウイルスは、私たちの日常生活や働き方にも大きな影響を与えたからです。
感染拡大を防ぐために、多くの企業で在宅勤務が導入されました。これまでとは違い、通勤時間の削減やフレキシブルな働き方が可能になりました。一方で、仕事と私生活の境界があいまいになってしまうなどの問題も発生したのです。
また外出自粛要請によって、行動範囲は制限され社会とのつながりが希薄になりました。友だちや家族と会えなかったり、自由に行動できなかったりすることは、少なからずメンタルへルスにも影響します。
新型コロナウイルスによって、身体的な健康だけでなく、心の健康やワークライフバランス、社会とのつながりの大切さを再認識することになったのです。ウェルビーイングの概念は、まさにこのような要素を含むものです。
日々変化する生活の中で、いかにウェルビーイングを高めていくかが課題となっています。企業も、従業員のメンタルヘルスケアや柔軟な働き方の導入が必要です。同時に個人も、セルフケアや人とのつながりを大切にしながら自分なりのウェルビーイングを探していく必要があります。
ウェルビーイングには、心理学者マーチン・セリグマンが提唱した理論と、世界的な調査研究機関ギャラップ社の概念があります。
2つの構成要素について、それぞれ詳しくみていきましょう。
心理学者マーチン・セリグマンは、「PERMA理論」と呼ばれるモデルを提唱しました。このモデルでは、以下の5つの要素が満たされることで、人生の満足度や幸福感が高まるとされています。
喜びや感謝、愛情など、前向きな感情を味わうことは、ウェルビーイングにとって重要です。ポジティブな感情は、ストレスを和らげ、心の回復力を高めてくれます。日々の生活の中で、小さな幸せを見つけ、大切にすることが求められます。
好きなことに夢中になり、時間を忘れて没頭する体験は、ウェルビーイングを高めます。仕事でも趣味でも、自分の強みを生かし、熱中できることを見つけましょう。没頭する体験は、達成感を高め、人生の意味を感じさせてくれます。
家族、友人、同僚など、周囲の人々との良好な関係は、ウェルビーイングの基盤となります。お互いを支え合い、認め合うことで、心の安定や存在感が得られます。一方的な関係ではなく、相互のつながりを築くことが大切です。
自分の存在意義や人生の目的を見出すことは、ウェルビーイングにとって欠かせません。社会貢献やボランティア活動など、何かのために尽力することで、生きる意味を感じられます。自分の価値観に基づき、意義ある行動を積み重ねましょう。
目標を設定し、それを達成することは、自己肯定感を高め、ウェルビーイングにつながります。大きな目標でなくても、日々の小さな成果を積み重ねることが重要です。自分の成長を実感し、新たな可能性に挑戦し続けることが、人生の充実感を生み出します。
これらの5つの要素は互いに関連があります。バランスよく満たされることで、ウェルビーイングが実現するのです。
世界的な調査研究機関ギャラップ社は、ウェルビーイングを構成する5つの重要な要素を特定しています。5つの重要な要素は、以下のとおりです。
キャリアウェルビーイングは、仕事に対する満足度や達成感を表します。自分の仕事にやりがいを感じ、スキルを発揮できているかどうかが重要なポイントです。高いキャリアウェルビーイングを持つ人は、仕事のパフォーマンスも優れていると言われています。
ソーシャルウェルビーイングは、家族や友人、同僚など、周囲の人々との関係性の質を測る指標です。周囲の人々との関係性は、心の健康や幸福感に大きく影響します。良好なコミュニケーションと互いの理解が、ソーシャルウェルビーイングを高めるカギとなります。
フィナンシャルウェルビーイングは、経済的な安定や満足度を表します。収入や資産、負債のバランスが適切で、将来への備えができているかどうかが重要です。お金の不安がストレスとなり、ウェルビーイングを損ねる可能性があるため、賢明な資金管理が求められます。
フィジカルウェルビーイングは、身体的な健康状態や体力レベルを指します。身体の健康は、フィジカルウェルビーイングの土台です。健康的なライフスタイルを送ることで、病気のリスクを減らし、活力ある毎日を過ごすことができます。
コミュニティウェルビーイングは、自分が所属するコミュニティへの満足度や貢献度を表します。地域社会や組織に積極的に参加し、他者との絆を強めることが大切です。コミュニティの一員として認められ、役割を果たすことで、自己肯定感や幸福感が高まります。
PERMA理論と同じく、ギャラップ社による構成要素も5つの要素が互いに関連しているのが特徴です。
これまでウェルビーイングの研究は欧米がリードしていましたが、近年では日本の国民性を考慮した研究も進められています。
SDGsは持続可能な開発目標のことで、ウェルビーイングとも密接な関係があります。
SDGsとは、2015年のサミットで採択され2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットからなる国際目標です。
貧困や飢餓の撲滅、健康と福祉の向上、教育の普遍性、ジェンダー平等、持続可能な街づくりやエネルギー、気候変動対策など、あらゆる課題に取り組み、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現を目指しています。
先進国も発展途上国も協力し、経済、社会、環境のバランスのとれた発展を目指す普遍的な目標であり、私たち一人ひとりの行動が重要です。
ウェルビーイングとSDGsは、密接に関連しています。ウェルビーイングが目指すのは、個人の幸福や満足度の高い「良い生活」ですが、SDGsが目指すのは、社会全体の持続可能な発展である「良い社会」です。
個人の「良い生活」が集まることで、「良い社会」が形成されます。つまり、一人ひとりがウェルビーイングを高めることが、SDGsの達成につながるのです。
特にSDGsの目標3「すべての人々が健康で充実した生活を送れるようにする」は、ウェルビーイングを追求するうえで重要な要素です。また、目標8「すべての人々が働きがいと経済成長を享受できるようにする」も、キャリアウェルビーイングの観点から欠かせません。
ウェルビーイングとSDGsは、個人と社会の幸福の両方を目指す、相互に関連した概念です。私たち一人ひとりが意識し、SDGsの達成に貢献することが求められています。
ウェルビーイングの向上に取り組むと、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
企業のメリットとして上げられるのは主に、以下の3つです。
特に、2つめの離職率の低下は優秀な人材を確保したい企業にとって大きなメリットとなります。それぞれ詳しくみていきましょう。
ウェルビーイングを企業が推進することは従業員の健康増進につながるだけでなく、会社の経費削減にも貢献します。
従業員の健康状態が改善されれば、病気やケガによる休職や欠勤が減少し、それに伴う健康保険の負担も軽減される可能性があります。
ウェルビーイングへの投資はコストが必要ですが、一方で、長期的に考えると従業員の幸福度を高め、企業の負担を減らす効果も期待できるのです。
従業員の心身の健康を守ることは、企業の社会的責任であると同時に、経営戦略としても重要な意味を持っています。
従業員のウェルビーイングを高めることは、離職率の低下にもつながります。
仕事に満足し、心身ともに健康で働きがいを感じられる環境があれば、会社に定着する傾向があります。離職率が下がると、優秀な人材の流出を防ぎ、採用コストや教育コストも削減可能です。従業員の定着率が高いと、ノウハウの蓄積や生産性の向上につながるのです。
ウェルビーイングを重視する企業は、従業員にとって魅力的な職場となり、人材の確保が容易になります。
従業員のウェルビーイングが高まると、生産性が上がり、業務の質も高まります。心身ともに健康的な状態であれば、仕事への意欲や集中力が向上するからです。
ストレスが少なく、良好な人間関係を築けている職場では、コミュニケーションが円滑になり、チームワークも強化できます。従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる環境を整えることが、組織全体の生産性向上につながります。
企業にとってもメリットがあるウェルビーイングですが、どのように取り入れればいいかわからないと感じている方もいるのではないでしょうか。
そこで、ウェルビーイングを取り入れる方法を紹介します。
それぞれ、詳しくみていきましょう。
ウェルビーイングを推進するためには、まず従業員の心身の健康状態を把握することが重要です。
定期的な健康診断やストレスチェック、アンケートなどを実施し、従業員の健康状態を見える化しましょう。心身の不調を早期に発見し、適切なサポートを提供することができます。
健康状態を定期的にモニタリングすることで、従業員自身も自分の健康に関心を持つようになります。ウェルビーイングの基礎となる心身の健康チェックを通して、健康的な職場環境づくりに取り組むことが大切です。
ウェルビーイングを高めるには、労働環境の改善が欠かせません。まず、時間外勤務の状況を確認し、過度な長時間労働をさせない必要があります。
労働環境の改善には憩いの場や柔軟な勤務制度を設けることが効果的です。快適な休憩スペースは従業員をリラックスさせ心身の健康に寄与します。柔軟な勤務時間制度やリモートワークの導入は、従業員のワークライフバランスを支援し、労働環境の改善につながります。
ウェルビーイングを高めるために従業員の心身に配慮した環境を構築しましょう。
肯定的な社内文化の構築とコミュニケーションの促進がウェルビーイングに効果的です。健全な職場環境を築くためには、従業員が互いを尊重し、支援する文化が不可欠です。成功の共有や積極的なフィードバックが社内にあれば従業員のモチベーションを維持することにつながります。
透明性を高め、従業員が自らの意見や懸念を自由に表現できる環境を整えることで、信頼と開放性のある職場を作り出しましょう。定期的なミーティングや個別のセッションを設け、従業員との対話を深めることで、チーム間のコミュニケーションを強化し、組織全体の協調を促進します。このような取り組みを通じて、企業は従業員の満足度を高め、より生産的な職場を実現することができます。
企業が従業員のウェルビーイングを支援するためには、個々の成長とキャリアの発展をサポートすることが大事です。継続的な教育とトレーニングの機会を提供することで、従業員の成長を促しましょう。成長を感じ取れることは日々の生活に充実感を持たせ、モチベーションを高めます。
従業員が自身のキャリアパスを明確にし、目標達成をサポートするための具体的な手段の提供も必要です。メンタリングプログラムの導入やキャリアカウンセリングサービスを導入し、従業員が自身のキャリア目標を設定し、努力することを促すことで、職場での満足度の向上が期待できます。
企業が個人の成長とキャリア開発をサポートすることは、従業員のウェルビーイングを高めるだけでなく、企業そのものの長期的なビジネスの成功につながるでしょう。
ウェルビーイングは企業の取り組みとして注目されていますが、個人レベルでも実践できます。
自分自身のウェルビーイングを高めるために、仕事後のリラックス方法やストレス解消法を見つけましょう。また、デスクワークによる運動不足を解消するために、定期的な運動を習慣化することも大切です。
人間関係の改善も、大きな影響を与えます。積極的にコミュニケーションをとり、良好な関係性を築くことを心がけましょう。
自分に合ったウェルビーイングの方法を見つけ、日々の生活に取り入れることで、心身ともに健康で充実した毎日を送ることができます。
楽天グループでもウェルビーイングに取り込んでいます。企業におけるウェルビーングの例として、楽天グループの取り組みを紹介します。
楽天グループには、組織と個人の新たな関係性や企業文化に関する研究機関、楽天ピープル&カルチャー研究所があります。現代社会では、選択肢が増えたことで、企業も個人も自分の進むべき道を自律的に選択することが求められています。そのため、楽天グループは個人とチームが協力し合いながら、それぞれのウェルビーイングを追求できる環境づくりを目指しています。
楽天ピープル&カルチャー研究所のウェブサイトでは、ウェルビーイングに関する記事の配信や、無料で使えるツールの提供を行っています。ご興味のある方は こちら からご覧ください。
楽天ピープル&カルチャー研究所では、コロナのパンデミックを契機に、持続可能なチームづくりのために「 コレクティブ・ウェルビーイング 」のガイドラインを作成しました。これは、個人のウェルビーイングだけでなく、チーム全体のウェルビーイングを高めることを目的としたガイドラインです。
コレクティブ・ウェルビーイングの考え方は、これからの時代に求められるチームのあり方です。多様性を尊重し、お互いを支え合うことで、個人とチームが共に成長し、ウェルビーイングを実現します。
コレクティブ・ウェルビーイングは「三間と余白」という切り口から、組織と個人のウェルビーイングを捉えようとするコンセプトです。「三間」とは「仲間」「時間」「空間」の3つの要素です。
企業と働く個人の両方の観点から、この3つの要素を適切に設計し、それぞれに「余白」を設けることが大切だと考えています。「余白」とはゆとりや自由度のことを指し、創造性やイノベーションを生み出す源泉です。
楽天ピープル&カルチャー研究所では、この「三間と余白」の考え方を実践するための簡易ツールを提供しており、誰でも無料でダウンロードできます。このツールを活用することで、企業と個人が協力し合いながら、持続可能なチームづくりに取り組めます。ツールは こちら からご覧いただけます。
ウェルビーイングは、個人のためだけでなく、企業の持続的な成長にも大きな影響を与えます。従業員のウェルビーイングが高まれば、生産性が向上し、離職率の低下や優秀な人材の確保も可能です。
企業がウェルビーイングを推進するには、労働環境の改善や健康経営の実践、コミュニケーションの活性化など、さまざまな取り組みが必要となります。
企業と従業員が協力し合いながら、ウェルビーイングを高めていくことが、これからの時代で求められています。