ナレッジマネジメントとは?メリット・手法・導入手順を徹底解説

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日々の業務において、情報共有に関する課題に悩む方も多いでしょう。「必要な情報を提供してもらえず、顧客からクレームを受けた」「十分な情報の引き継ぎが行われず、業務をスムーズに進められない」などの問題が発生すると自社の評価だけでなく、従業員のモチベーションも下がります。

これらの情報共有の課題を解決する手法が、ナレッジマネジメントです。この記事ではナレッジマネジメントの定義や企業に求められる理由、企業にもたらすメリットや実現する方法、導入手順について解説します。

ナレッジマネジメントとは?メリット・手法・導入手順を徹底解説

ナレッジマネジメントとはなにか?

ナレッジマネジメントとはなにか?

ナレッジマネジメントとは、社内に散在する「ナレッジ」(業務に役立つ知識やノウハウ)を企業全体で共有し、新たな「知」を創造して価値を生み出す経営手法です。「業務の遂行に役立つ情報」には、知識や知見、スキル、ノウハウなどがあります。

ナレッジマネジメントを推進することで、属人化を解消できます。個々の従業員や特定の部署に留まっていた情報が企業全体で活用され、従業員全体のレベルアップや、収益の向上などの成果につなげることが可能です。

ナレッジマネジメントの実践に用いられる「SECIモデル」

ナレッジマネジメントには暗黙知を形式知に変換し、個々の知識を組織で共有する「SECI(セキ)モデル」が取り入れられています。SECIモデルは以下に挙げる4つのプロセスを実施し、繰り返し行うことが特徴です。

番号 ステップ 内容
1 共同化 共通の体験や作業を通して、暗黙知を伝えるプロセス。言葉だけでなく、体や五感も用いられる。OJTやロールプレイング、雑談などの「創発の場」で行われる
2 表出化 暗黙知を形式知に変換する。文字や音声、映像、図、比喩、ストーリーなど、多種多様な方法から適切な方法を選ぶ。会議や打ち合わせ、ブレインストーミングなどの「対話の場」で行われる
3 連結化 新たな形式知を作るプロセス。形式知を組み合わせて、新たな知識体系を創造する。グループウェアやSNSの活用といった「システムの場」で行われる
4 内面化 形式知の実践がもたらす新たな経験や知識、ノウハウを、暗黙知として会得する。業務や研修などの「実践の場」で行われる

4番の「内面化」を行った後は、1番の「共同化」に戻ります。1番から4番のサイクルを繰り返すことで、企業に蓄積されるナレッジが増加します。

ナレッジマネジメントが実務で役立つ場面を紹介

ナレッジマネジメントは以下のとおり、さまざまな業務で役立ちます。

  1. 迅速で正確な組み立てのコツをマニュアルにまとめ、OJTで活用する
  2. 日々の機器メンテナンス業務において機器のクセなどを共有し、故障の予兆を早期に発見する
  3. 売れるノウハウを共有して、組織(店舗)全体の売上をアップする
  4. 入院患者への対応を担当医制からチーム制に変更して、労働時間短縮と良質な医療の提供を実現する

ナレッジマネジメントが企業に求められる4つの理由

ナレッジマネジメントが企業に求められる4つの理由

ナレッジマネジメントが企業に求められる理由は、4つあります。それぞれの理由を解説します。

激しい競争を勝ち抜くため、ナレッジの共有が求められている

企業間の競争が激化する現代において、他社よりも優位に立つためにはナレッジの共有と活用が不可欠です。AIが多方面の情報を素早く分析しアウトプットする現代において、従業員個々の知識だけで太刀打ちすることは困難です。社内に散らばるナレッジを結集し、企業の総力をあげて競争に勝ち抜く取り組みが求められています。

転職が一般的になり、従業員の間で知識が継承しにくくなった

令和の時代は転職が一般的であり、有効求人倍率も高い「売り手市場」となっています。ベテラン社員であっても、以下の条件が揃えば転職をいとわないかもしれません。

  1. 今の職場で正当な評価を受けていないと感じている
  2. 職場環境や人間関係が悪い
  3. 転職先の条件が良い(働きやすい)

「人」に依存する経営には危険が潜んでいます。従業員の退職は、知識の喪失に直結するためです。企業は「従業員はいずれ離職すること」を前提として、ナレッジの取りまとめや共有に取り組まなければなりません。

働き方の多様化が進んでいる

働き方の多様化が進んでいることも、ナレッジマネジメントを推進する要因に挙げられます。コロナ禍を機に、テレワークを採用・試行する企業は増えました。わざわざ出社しなくても、ナレッジを用意しておけば進められる業務も多くなっています。

このような時代において、「見て覚えろ」という方法は機会の減少により学びにかかる期間が長くなるため、必ずしも優れているとはいえません。競合他社がナレッジを結集し従業員を短期間で戦力化できた場合、自社は競争に敗れるおそれがあります。

「人」に任せる弊害を防ぐ必要がある

個々の従業員が持つナレッジを共有しないことは、企業に対して以下の弊害をもたらします。

  1. 特定の従業員しか業務を担当できないため、他の部署で多種多様な経験を積ませにくい
  2. 従業員の退職はナレッジの損失に直結する
  3. 担当者が固定化されるため、横領などの不正やミスの隠蔽が起こりやすい

ナレッジマネジメントに取り組むことで、個々の従業員が持つナレッジは可視化され、社内で共有されます。他者によるチェックもしやすくなるでしょう。社内における人材の交流を活発にすることで、担当者が変わらないことによる不正を抑止できます。

ナレッジマネジメントの活用で得られるメリット

ナレッジマネジメントの活用で得られるメリット

企業はナレッジマネジメントの活用により、多種多様なメリットを得られます。現場の改善から職場改革にわたる、7つのメリットを確認していきましょう。

担当者が不在でも問い合わせ対応を迅速に行える

ナレッジマネジメントにより情報を共有することで、担当者が不在の場合でも問い合わせへの対応を迅速に行えます。担当者の帰社を待つ必要はありません。顧客が求める情報を迅速に提供できるため、良い顧客体験を提供できるでしょう。顧客満足度の向上にもつながります。

担当者の人事異動や退職後も、知識を組織内にとどめられる

ナレッジマネジメントを進める企業では、担当者がいなくなっても影響を最小限に抑えられます。業務で蓄積したナレッジは社内に残るためです。後任者はナレッジを活用して、スムーズに業務を継続することが可能。既存顧客に悪影響をおよぼすことなく対応を継続できます。

「セクショナリズム」を是正し、効率的に業務を進められる

企業のなかには、自らの部門や事業の利益のみに注力し、他の部門と協力しない「セクショナリズム」が蔓延する場合もあります。このような企業では、以下の事態が発生しがちです。

  1. 複数の部署で同一の、または類似する業務を行う無駄が発生する
  2. 失敗事例が共有されず、度重なる失敗による損失や信頼の失墜につながる
  3. 顧客対応における部門間の連携がスムーズに取れず、顧客満足度の低下につながる

トップの方針としてナレッジマネジメントに取り組むことが決まれば、自部門のナレッジを提供せざるを得なくなるでしょう。他部門のナレッジを活用するメリットを実感することで、業務を効率的に進め、高い成果につなげることが可能です。

失敗した事例を共有し、未然に防ぐ取り組みを推進できる

失敗した事例を速やかに共有することで、失敗に至る分析を適切に実施できます。失敗のみならず、失敗の前段階となる「インシデント」や「ヒヤリハット」も未然に防ぐことが可能です。同じ失敗を複数の部署で繰り返し起こす不祥事を防げるでしょう。

社内教育やOJTを効果的に進められる

ナレッジマネジメントは、社内教育やOJTにも役立ちます。企業のナレッジを集約できるため、以下のメリットを得られることが理由です。

  1. より正確で効率的な業務の遂行方法を発見し共有できる
  2. 短期間で効果が上がるカリキュラムを組める

経験の浅い指導者でも、効果的に従業員を教育できるようになります。これにより、短期間で一人前に育て上げることも可能です。

利用者に喜ばれる新商品や新サービスを開発しやすくなる

ナレッジマネジメントの実現により、社内にある多種多様な情報を活用できます。カスタマーサービス部門に寄せられた「顧客の声」を分析し、新たな製品やサービスを創出することは代表的な例です。社内のナレッジを活用することでより幅広い観点から検討を進めることができ、顧客に喜ばれる製品やサービスの開発を実現しやすくなります。

全社規模で行う業務改善やDXに対応できる

ナレッジを全社規模で共有することは、より良い業務の進め方を横展開する取り組みにつながります。一つの部署で成功した取り組みは、全社における働き方改革や業績アップにつながるでしょう。多くの部署で共通する課題を可視化することで、DXや業務改善など、全社規模での取り組みも進めやすくなります。

ナレッジマネジメントを実現する主な方法

ナレッジマネジメントを実現する主な方法

ナレッジマネジメントを実現する方法は、複数あります。用いる方法によって、特徴や使いやすさ、得られるメリットが異なることに留意してください。

方法 特徴や使いやすさ、得られるメリットや注意点
Excelでの管理
  1. 多くの従業員にとって使い慣れたソフトウェアであり、活用のハードルが低い
  2. 導入にあたり追加のコストがかからない
  3. 複数のファイルが乱立し、どれが最新版かわからなくなるリスクがある
  4. マクロや複雑な関数で作り込むと、メンテナンスしにくくなる
社内wiki
  1. ホームページに関する知識が少ない従業員でも、Webページの作成や編集を行える「wiki」の技術を使い、ナレッジを格納する
  2. 無料で構築可能。ツールを使えば簡単に記事を作成できる
  3. 項目の内容が冗長となり、コンテンツの量が膨大になるおそれがある
ナレッジ共有ツール
  1. ナレッジの共有に最適化されたシステムであり、ニーズに合うツールを選択できる
  2. ナレッジの整理や、必要な情報を取り出しやすい
  3. 費用を要する場合がある。ツールの操作方法を習得する必要もある

上記の内容をもとに、ツールを選ぶことをオススメします。

ナレッジマネジメントの導入手順

ナレッジマネジメントの導入は、以下の手順で進めるとスムーズです。

  1. 目的やメリットを明確にする
  2. 共有したい情報を決める
  3. ナレッジマネジメントを実現する手法を決める
  4. ナレッジマネジメントを実行する
  5. 施策を評価し、定期的に見直す

導入する際には一部の部署で試行し、結果を踏まえて全社に拡大する進め方も有効です。

業務改革や業務改善に関する用語との関係性や相違点

ナレッジマネジメントは業務改革や業務改善に関する用語とともに使われ、比較検討されます。代表的な用語との関係性や相違点を、以下の表でご確認ください。

用語 ナレッジマネジメントとの関係性や相違点
DX(デジタルトランスフォーメーション) デジタル技術を用いて、全社規模の業務改革や新しいビジネスモデルを創出する取り組み。ナレッジマネジメントの取り組みはDXを後押しする
知識管理、知識経営 ナレッジマネジメントの日本語訳
知的資産経営 企業に固有の知的資産を認識し、活用をとおして収益につなげる経営。ナレッジに加えて、企業の知的財産権(特許権や著作権など)、知的財産(ブランドなど)が含まれる
働き方改革 労働者が多様で柔軟な働き方を選べるようにするための改革。ナレッジマネジメントの活用により労働生産性が向上し、残業時間の低減につなげることが可能。ワーク・ライフ・バランスを向上できる

ナレッジマネジメントを適切に活用し、さらなる発展につなげましょう

ナレッジマネジメントを適切に活用し、さらなる発展につなげよう

ナレッジマネジメントを適切に活用することで、個々の従業員の力だけでは実現できない、組織ならではの大きな成果をあげることが可能です。ナレッジを活用した事業運営を行うことで、ますます厳しくなる競争にも勝ち残ることができるでしょう。自社のさらなる発展に、ナレッジマネジメントを生かしてください。