インターネットの広がりは、新しいビジネスを生んでいます。話題の「シェアリングエコノミー」や「プラットフォームビジネス」は、その一つです。
両者は相互に関係する一方で、意味や目的は異なります。この記事で、シェアリングエコノミーとはなにか、またプラットフォームビジネスとの違いや関係性を確認していきましょう。
シェアリングエコノミーとは、インターネット上で提供するプラットフォームを介して個人間で使っていないモノ・場所・技能(スキル)などを販売・貸与・提供する経済モデルです。物品や不動産、スキルなどを持つ個人が、常に所有する物品等を有効活用しているとは限らないという点に着目したサービスです。
プラットフォームビジネスとは、販売者と購買者をつなげるサービスを運営するビジネスです。サービスの運営者は、インターネット上に販売者と購買者をつなぐ場となる「プラットフォーム」を用意します。販売者はプラットフォームを活用することで、自社でECサイトを構築することなく物品の販売やサービスの提供を行えます。
プラットフォームビジネスの遂行には、安定した収入源が必要です。この目的を達成するため、年額や月額で料金を定めてサービスの利用者から徴収する「サブスクリプションサービス」が広く使われています。サブスクリプションサービスは支出額を一定にできるため、予算を立てやすい点で利用者にもメリットのある方法です。
シェアリングエコノミーは、プラットフォームの運営会社が所有者と利用者の仲介を行って収益を得ます。この点で、プラットフォームビジネスの一つに分類されます。
シェアリングエコノミーとプラットフォームビジネスには、以下の相違点があります。
項目 | シェアリングエコノミー | プラットフォームビジネス |
---|---|---|
ビジネスの形態 | 物やスキルをやり取りする | 販売者と購買者をつなげるプラットフォームを作り運営する |
取引の当事者 | 個人間の取引が多い | 事業者間、または事業者と個人との取引が多い |
利用するメリット | 所有者は物やスキルを提供して収益を得る。利用者は低コストで必要な物やサービスを使える | 自前でECサイトを構築せずに、インターネット販売を行える |
シェアリングエコノミーとプラットフォームビジネスの性質は異なりますが、密接な関係があります。シェアリングエコノミーの実現には、基盤となるプラットフォームが欠かせません。プラットフォームビジネスは、シェアリングエコノミーの普及において重要な役割を担っています。
シェアリングエコノミーを活用することは所有者・利用者ともにメリットがあります。どのようなメリットを得られるか解説します。
所有者が活用できていない不動産や物品、スキルを社会で生かせることは、シェアリングエコノミーの代表的なメリットに挙げられます。所有者は不動産や物品を利用者に貸与・譲渡する、またはスキルを提供することで、必要とする人のために役立てることが可能となり、収入を得られます。
近年、「たまにしか使わない物は買わない」といった行動や、必要最低限の物だけで生活する「ミニマリスト」など、無駄を省くライフスタイルが世の中に浸透してきています。このようなライフスタイルを選ぶ人にとって、シェアリングエコノミーは強い味方です。事前に物を購入する代わりに、必要なときに必要な物を使えるため、買い替えの手間をかける必要がなく、いつでも最新の物を使えるという点でも魅力的があります。
シェアリングエコノミーには、製造が終了した古い製品を使えるチャンスがあるというメリットがあります。一例として、VHSやベータのビデオデッキが挙げられます。新品や中古での入手が困難で、企業によるレンタルサービスも提供されていない製品もあるかもしれません。シェアリングエコノミーならば、ビデオデッキを所有する方が貸し出す意思を表明すれば、使いたい人はビデオデッキを借用することが可能です。
コストを抑えられるという点も、シェアリングエコノミーのメリットです。物を購入した場合、保有期間中に継続して保管するコストや、廃棄費用が発生することがあります。不動産や高額の機器を購入した場合は、固定資産税の納付が発生します。シェアリングエコノミーで購入する場合は購入費用、借用する場合は利用料金だけで済むため、短期間だけ使用する場合には、購入するよりも少ない費用で済む可能性があります。
近年注目されているSDGsを実践できることも、シェアリングエコノミーのメリットに挙げられます。SDGsで掲げられた17の目標のうち、シェアリングエコノミーは以下の2項目に関わります。
特に関係が深い目標は、12番「つくる責任、つかう責任」です。「物を買う代わりに使いたい期間だけ使い、ごみを減らす」ことは、シェアリングエコノミーの活用で得られる結果の一例です。
さまざまなメリットがあり注目されているシェアリングエコノミーの4つの課題を解説します。
シェアリングエコノミーの場合、シェアする側の所有者は個人となる場合が多いです。所有者の信頼性や、きちんとしたものを提供・貸与してくれるかという点が課題です。シェアする人の詳細を知りたくても、個人情報保護法の壁に阻まれる場合もあります。このため「相手が誠実な人か、またどんな物が渡されるか、事前に十分チェックできない」リスクがあります。
クラウドソーシングなど、能力をシェアするサービスを活用する際にも注意が必要です。有名人でもない限り、能力を提供する人の実力は広く公開されていません。実際よりもスキルを高く偽ることで、スキルの無い方が仕事にエントリーするケースがあります。
利用者がどれだけ信頼できるか事前にチェックしにくいことも、シェアリングエコノミーを活用する課題の一つです。シェアリングエコノミーを使って貸与することには、以下のリスクもあります。
シェアリングエコノミーでは所有者が個人となるため、紛失や破損、汚損のダメージは法人よりも大きくなる可能性があります。
トラブルが起きた際の責任の所在も、課題に挙げられます。シェアリングエコノミーは、所有する人と使う人が別々のため、物が壊れた場合にどこに責任があるかわからず、所有者の費用で修繕しなければならない場合もあります。
物をやり取りせずスキルをシェアするサービスでも、あいまいな言葉や、不確かな認識に基づくやり取りからトラブルにつながる可能性があります。シェアリングエコノミーで争いが生じると、当事者間で解決できない場合もあります。この場合は取引に直接関与していないプラットフォームの運営会社に対して、苦情が入るケースも少なくありません。
シェアリングエコノミーを推進するプラットフォームのなかには、評価システムを有するものもあります。相手に対してきちんと対応したにも関わらず、悪い評価をつけられる可能性があることも課題の一つに挙げられます。一度つけられた評価を修正することは難しいため、その後のサービスの活用に不利となってしまうことは留意しておきたいポイントです。
シェアリングエコノミーやプラットフォームビジネスは、さまざまな場面で活用されています。どのような用途で使われているか、代表的な活用例を確認していきましょう。
シェアリングエコノミーということを意識することなく、頻繁に利用している方もいるのではないでしょうか。シェアリングエコノミーは、以下のようなサービスで使われています。
一方でプラットフォームビジネスは、以下の用途で用いられています。
BtoCはもちろんBtoBも含め、多種多様なビジネスが含まれます。パブリッククラウドといった、シェアリングサービスの基盤として使われるサービスもあります。
シェアリングエコノミーはプラットフォームビジネスと異なり、個人間での取引が中心となります。市場では見つけにくい品物を借用できるなどニッチな需要を満たせることや、個人のもつスキルを社会に生かす機会が増えることなどが魅力的である一方で、シェアする側・シェアされる側の双方の状況がわからない点や、品物や建物の取り扱いについて事前に確認できない点などのリスクもあります。
シェアリングエコノミーのビジネスを推進する際には、特徴とリスクを把握したうえで進めましょう。シェアする人、利用する人それぞれに対してメリットを提示しつつ、陥りやすいポイントを回避できるよう工夫する取り組みが重要です。