ERP(Enterprise Resources Planning、企業資源計画)とは、企業全体の業務プロセスを統合し、効率化を図るためのシステムです。企業が持つ「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」といった経営資源を一元管理することで、業務の効率を大幅に向上させ、迅速な経営判断をサポートします。
ERPとはどのようなものなのか、基本的な概念と役割を解説するために以下の4つに分けて紹介します。
それぞれみていきましょう。
ERPは、経営資源の管理を効率化するための「統合システム」として機能します。もともとは製造業で生まれた「MRP(Material Requirements Planning)」を発展させたものですが、現在ではどの業種でも必要なシステムとされています。
ERPの大きな特徴は、部門ごとに分断されていたデータや業務を、1つのプラットフォームで管理し、全体の最適化を図ることです。各部門の連携を強化し、迅速な経営判断を可能にします。特に複数の拠点を持つ企業や多国籍企業にとっては、ERPが持つグローバルな視点での管理能力が有効です。
ERPが企業にとって必要な理由は、データの「一元管理」による業務の効率化です。通常、企業はさまざまな部門やシステムでデータを管理していますが、これらが分断されていると、情報の共有がスムーズに行われず、意思決定が遅れることがあります。ERPを導入すれば、各部門がリアルタイムでデータを共有でき、部門を超えた連携を強化できます。
さらに、一元管理で全社のデータが一箇所に集約されるため、経営層はデータに基づいた素早い経営判断が可能です。競争力の維持につながり、持続的な成長を支える強力な経営基盤を構築できます。
ERPは、企業の各部門(例えば、経理、人事、販売、在庫管理など)における業務を、単一のシステム上で管理する仕組みです。一方、基幹システムは基幹部門の業務データを管理するために各部門ごとに設置された個々のシステムです。ERPでは、具体的に以下のようなことが可能となります。
リアルタイムでの情報共有 | 各部門が常に最新の情報をもとに業務を遂行 各部門間の連携が強化され、意思決定がスムーズになる |
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プロセスの自動化 | 手動で行っていた業務プロセスを自動化し、作業時間を削減 従業員はより重要な業務に集中できる |
全体的な業務の可視化 | 経営者は企業全体のパフォーマンスを一目で把握できる 経営戦略を迅速に調整できる |
基幹システムとは違い、ERPでは単一のシステムで業務を管理するため、情報共有や業務の可視化が簡単にできるようになります。
ERPは、企業が抱えるさまざまな業務を管理するための機能を提供します。主な機能には以下のようなものがあります。
各企業のニーズに応じて、ERPの構成や機能は異なりますが、いずれも企業の業務全般をサポートし、全体的な効率を向上させるために設計されています。
ERPシステムの導入は、企業に多くの利点をもたらす一方で、導入にあたっての課題も存在します。ここでは、ERP導入のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
ERP導入のメリットは主に4つあります。それぞれ詳しく解説します。
ERPシステムは、企業内のさまざまなデータを一元管理可能です。これまで部門ごとに異なるシステムを使用していた場合には、データの連携や共有が煩雑になることもありました。しかし、ERPを導入することで、全社でデータをリアルタイムで共有でき、経営層の迅速な意思決定をサポートします。
従来の手作業によるデータ入力では、ヒューマンエラーが発生するリスクがありました。ERPシステムでは、データの自動化や一貫した入力プロセスが整備されているため、入力ミスを大幅に削減できます。また、複数のシステムからのデータ移行が不要になるため、データ移行の手間も軽減されます。
ERPシステムを活用することで、各部門間の情報共有が円滑に進み、問い合わせや確認作業にかかる時間や手間が大幅に削減されます。部署間の連携が強化され、業務全体の効率化が実現します。
ERPシステムは、セキュリティ管理を一括で行い、情報のアクセス制御やデータ保護が強化されます。特定のユーザーや部門ごとにアクセス権限を設定することで、機密情報の流出リスクを防ぎ、セキュリティを高めることが可能です。
ERP導入には、メリットだけでなくデメリットもあります。ここでは、ERP導入によるデメリットを3つ紹介します。
ERPシステムには、多くの製品やベンダーが存在し、企業の業務内容や規模に適したシステムを選ぶことが難しい場合があります。導入する際には、システムの機能性やコスト、サポート内容の慎重な比較・検討が必要です。選定に失敗すると、導入効果が思うように得られないリスクがあります。
ERPシステムは、導入にあたって初期コストが高額になるケースが多いです。また、システムの操作や運用に関する社内教育が必要となり、従業員のトレーニングコストや時間的負担が生じます。特に、大規模なシステム導入の場合、全社員への教育が必要となるため、これが導入の一つの障壁となることがあります。
ERPを導入することで、既存の業務フローに変更が生じる場合があります。これまで各部門で行っていた個別の業務プロセスを統合する必要があるため、業務の進行に一時的な混乱が生じるかもしれません。このため、導入初期には、社内全体で業務プロセスの見直しや調整が必要です。
ERPは、企業の業務全体を管理し、統合するためのシステムですが、CRMやSFA、MAなど他のシステムと混同されることがよくあります。ここでは、それぞれのシステムの違いについて詳しく解説します。
CRM(Customer Relationship Management)は、顧客との関係を管理・強化するためのシステムです。CRMの主な目的は、顧客とのやり取りや履歴を一元管理し、顧客満足度を高めることです。例えば、顧客の購買履歴やサポート履歴をCRMで管理すると、より個別のニーズに対応したサービスを提供できます。
一方、ERPは企業の業務プロセス全体を統合するためのシステムです。CRMが顧客管理に特化しているのに対し、ERPは会計、人事、在庫管理、購買など、企業のあらゆる部門での業務を一元管理します。CRMは顧客にフォーカスしたシステムであり、ERPは企業全体の業務効率化を目指すシステムです。
CRMについては、「CRMとは?SFA・MA・ERPとの違いや導入に必要な知識をわかりやすく解説」で解説しています。さらに知りたい方はぜひご覧ください。
SFA(Sales Force Automation)は、営業活動を管理・支援するシステムで、主に営業担当者が使用します。SFAを活用することで、顧客との商談内容や進捗状況、取引履歴を一元管理でき、営業プロセスを可視化して効率的に進めることが可能です。
一方、MA(Marketing Automation)は、マーケティング活動の自動化を目的としたシステムです。リード顧客の獲得から育成(ナーチャリング)、分析レポートの作成までを自動化し、マーケティング業務の効率化を図ります。リードスコアリングなどの機能を使うことで、顧客がどの段階にいるかを把握し、最適なアプローチが可能です。
これに対して、ERPは営業活動やマーケティング活動だけでなく、企業全体の業務を管理することを目的としています。SFAやMAが顧客に特化しているのに対し、ERPは経営資源全体を管理し、すべての業務プロセスを統合します。
SFAについては、「営業活動を強化するSFAとは?導入のメリット・デメリットを解説」で解説しています。さらに知りたい方はぜひご覧ください。
MAについては、「マーケティングオートメーション(MA)とは? 導入前に押さえておくべき基本機能やメリット・デメリットをやさしく解説」で解説しています。さらに知りたい方はぜひご覧ください。
ERPシステムを導入する際には、クラウド型ERPとオンプレミス型ERPという2つの選択肢があります。それぞれの特徴とメリット・デメリットを紹介します。
クラウド型ERPは、インターネット経由でシステムを利用するモデルです。自社でサーバーを持つ必要がなく、ソフトウェアのインストールやハードウェアの管理は不要であることが特徴です。
以下のようなメリットがあります。
但し、メリットがある一方で、デメリットとしてセキュリティ面に注意が必要です。企業の機密データを外部のサーバーに預けることになるため、信頼できるプロバイダーを選ぶことが重要です。セキュリティ対策やデータの保護に十分な信頼性があるかを確認することがかかせません。
オンプレミス型ERPは、自社内にサーバーを設置し、システムを自社で管理する形式です。クラウド型ERPが登場する以前は、オンプレミス型が主流でした。メリットは、システムを自社の業務プロセスに合わせて柔軟にカスタマイズできる点です。また、すべてのデータとシステムが自社内にあるため、セキュリティの管理を完全にコントロールできるという点もオンプレミス型の強みです。
しかし、デメリットもあります。システムの導入には高額な費用がかかり、クラウド型に比べて総費用が大きくなることが多いです。さらに、システムの運用やメンテナンスは自社で行う必要があり、そのために専門的な知識やスキルを持った人材が求められます。システムの更新やセキュリティ対策なども自社の責任で行う必要があるため、管理の負担は大きくなります。
中小企業においてもERPの導入が進んでいる背景には、SaaS型ERPの普及とデジタル化による競争力強化が大きく影響しています。以前は、オンプレミス型ERPが主流であり、導入には高額な初期費用や専門的な運用知識が必要だったため、中小企業にとってはハードルが高かったからです。大企業向けのシステムであり、中小企業には手を出しづらい状況が続いていました。
しかし、2000年代後半から、日本市場向けのSaaS型ERPが登場し、中小企業でもERPを導入しやすくなりました。SaaS型ERPはクラウド上でシステムが提供されるため、自社でサーバーを持つ必要がなく、初期費用が大幅に削減される点が魅力です。また、常に最新のバージョンを利用できるため、システムの更新や保守の手間も軽減され、従来のERP導入に比べて格段に利便性が向上しました。
デジタル化が企業の競争力に直結する現代では、中小企業にとっても業務の効率化やデータの一元管理が必須となっています。ERPは、DX化の実現に欠かせないシステムとして、規模に関わらず多くの企業で導入が進んでいるのです。特に、SaaS型ERPは費用対効果が高く、リモートワークにも対応しやすいため、これからも中小企業での導入がさらに広まっていくと考えられます。
ERPシステムには明確な定義がありません。ERPは会計や人事、生産販売管理など、どの企業でも必要とされる基本機能を提供しますが、業種によって必要な機能や構成は異なります。製造業の場合、これに加えて購買管理や在庫管理、生産管理などの機能が求められるでしょう。一方で、サービス業では顧客管理やプロジェクト管理といった機能が重要になる場合もあります。
自社にとって、どの機能が最も必要かを慎重に検討することがERP導入の成功につながります。ERPシステムは、すべての業務を一括で統合する「統合型ERP」として導入する方法が一般的ですが、全機能を一度に導入する必要はありません。
まずは自社にとって最も重要な中核機能から導入し、業務の進行や改善に合わせてシステムを拡大していくアプローチも有効です。例えば、初期段階では会計管理や在庫管理を導入し、後から販売管理や人事管理を追加することで、段階的にERPを取り入れられます。
企業の状況やニーズによっては、ERPの全機能を一括で導入するのではなく、特定の機能だけを利用することも選択肢の一つです。また、複数のERPモジュールを組み合わせてカスタマイズすることで、自社に最適なシステムを構築できます。そのため、ERP導入を検討する際は、自社の業務内容や将来的な成長を見据えたうえで、どのシステムや機能が最も適しているかを判断することが重要です。
2025年に向けて、日本の企業にとって重要な課題の一つが、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題です。この問題は、老朽化した基幹システムが企業の成長やデジタル化を妨げる大きな障害となっていることを指摘しています。
1990年代から2000年代初頭に導入されたオンプレミス型ERPシステムは、サポート終了を迎えようとしており、特にSAPのオンプレミス型ERPシステムは、2027年でサポートが終了します。このため、企業は新しいクラウドベースの「SAP S/4HANA」への移行を迫られています。移行にはコストと時間がかかるため、準備不足の企業にとっては重大なリスクとなりかねません。この問題を受けて、新しいERP導入やシステムの刷新を急ぐ企業が増えているのです。
新しいERPの導入は単にシステムのアップデートにとどまらず、業務のデジタル化を加速させ、競争力を強化するためにあります。オンプレミス型からクラウド型ERPへの移行は、企業に柔軟性と効率を提供し、老朽化したシステムに依存するリスクを低減します。クラウド型ERPは、常に最新のバージョンを利用でき、災害時の事業継続性(BCP)にも対応しているため、今後ますます重要な選択肢となるでしょう。
2025年問題に直面する企業は、新しいERPの導入やシステム刷新を検討すべきタイミングを迎えています。システム刷新により、基幹システムの老朽化やサポート終了のリスクを回避し、将来に向けた競争力強化を図れるでしょう。
この記事では、ERPシステムの基本的な概念や、その役割、導入のメリットとデメリット、さらにクラウド型とオンプレミス型ERPの違いについて解説してきました。ERPは、企業の業務プロセスを統合し、効率化を図るための強力なシステムです。会計や人事、生産管理など、さまざまな部門をシームレスに連携させることで、データの一元管理が可能となり、経営判断の迅速化にもつながります。
クラウド型ERPの普及により、初期導入コストや運用コストの負担が軽減され、中小企業でも導入できるようになりました。また、テレワークや副業人材の活用が進むなかで、柔軟な働き方にも対応できる点が、クラウド型ERPの大きな強みです。
一方で、2025年問題に直面している企業は、老朽化したシステムの更新やSAPのサポート終了を受け、システム移行を急ぐ必要があります。
ERPは、単なる効率化のシステムにとどまらず、企業のデジタル化を推進し、競争力を強化するための重要なシステムです。業務効率化と成長を加速させるために、まず現状の課題を洗い出し、必要な機能を明確にしましょう。そのうえで自社に最適なERPシステムの導入を検討してみてください。