ワークライフバランスはどんな意味?メリットや有効な取り組み、活用事例を紹介

ワークライフバランスは、社会の重要なキーワードに挙げられています。ワークライフバランスの実現により従業員の能力とやる気を引き出し、貴重な人的資産を活かして業績アップにつなげることが可能です。

この記事ではワークライフバランスの意味やメリット、実現につながる取り組みを解説し、活用事例を紹介します。ワークライフバランスに関心をお持ちの方はぜひお読みください。
ワークライフバランスはどんな意味?メリットや有効な取り組み、活用事例を紹介

ワークライフバランスとはなにか?

ワークライフバランスとはなにか?

ワークライフバランスは、家庭や地域生活と仕事を両立する取り組みです。仕事で担うべき役割を果たしつつ、働き方や仕事の進め方を工夫して、従業員が家庭での役割を果たし地域の担い手となれることを目指します。

内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、ワークライフバランスが実現した社会を以下のとおり定義しています。

国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会

ワークライフバランスは、仕事や家庭、プライベートのいずれも充実させる取り組みです。「仕事をできるだけ抑えて、プライベートを充実させる」といった意味ではないことに注意してください。

ワークライフバランスは男女ともに幅広い年代の課題を解決する

ワークライフバランスは、働く方の課題を解決する有力な方法の一つです。女性だけでなく男性も、またどの年代もメリットを得られます。

女性は家事や育児、介護の主な担い手となるケースも少なくありません。このためスキルや能力があるにも関わらず家庭事情により離職し、その後復職できずキャリアが途切れるおそれがあります。働けない期間、また働き方に制限がかかる期間があっても、望むキャリアを実現できる仕組みづくりが重要です。

一方で男性も、ひたすら働き家と職場を往復するだけの日々は好ましくありません。育児を妻任せにしていたのでは、子どもとの関係性が希薄になるおそれがあります。職場以外の人間関係を積極的につくらなければ、定年後に家族から見限られ、孤独な生活を余儀なくされるかもしれません。現に「熟年離婚」は、社会問題の一つです。

そもそも労働者の絶対数が減少しているため、女性も高齢者も働いてもらわなければ社会が回らない時代となっています。ワークライフバランスにより働き続けやすい環境を実現し、働き手を確保する効果が期待できます。また男女問わず、充実した生活の実現にも貢献します。

ワークライフバランスが実現するとどんな社会になる?

ワークライフバランスにより、多くの方にとって過ごしやすい社会が実現します。内閣府は「仕事と生活の調和」推進サイトにおいて、以下の項目が実現される社会を目指すべきと公表しています。

  1. 就労による経済的自立が可能な社会
  2. 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
  3. 多様な働き方・生き方が選択できる社会

個々の置かれた状況に応じた働き方を選び、生活に必要な収入が得られる。また健やかに日々を過ごすことができ、プライベートも充実。スキルアップや社会貢献も行える。ワークライフバランスを実現すれば、労働者も社会もWin-Winの結果を得られます。法人も従業員の能力を引き出し、業績アップを実現できるでしょう。ワークライフバランスは、多方面にメリットをもたらす取り組みです。

なぜワークライフバランスは注目されているのか?

なぜワークライフバランスは注目されているのか?

ワークライフバランスが注目される背景には、労働者の要望に加えて、社会からの要請もあります。さまざまな社会課題を抱える日本では、ワークライフバランスが有効な解決策となる課題も多いです。ここでは主な4つの項目を取り上げ、ワークライフバランスが注目される理由を確認していきましょう。

仕事もプライベートも充実したい人の増加

仕事もプライベートも充実させたい方は、増加しています。内閣府は、以下の調査結果を公表しています。

  • 男女問わずどの年代も、プライベートや家庭生活を一定程度重視したい方が6割以上
  • 職場を選ぶ際に「突発的なときにも休みやすいこと」を優先したい方が7割以上

最近ではワークライフバランスを一歩進めて、「ワークライフインテグレーション」という用語も登場しています。仕事とプライベートは別、または対立するものと考える代わりに、両者を統合し相乗効果を狙う考え方です。プライベートで得た知見を仕事に活かし、業績アップに貢献できることは大きなメリットといえるでしょう。

高齢化社会の進展

日本では65歳以上の高齢者が増え続ける一方で、現役世代(15歳~64歳)の人口は減少を続けています。内閣府「令和5年版高齢社会白書」によると、高齢者を現役世代で支える割合は以下のとおりであり、年々65歳以下の負担は増しています。


高齢者1人を支える現役世代の人数
1990年 5.8人
2000年 3.9人
2010年 2.8人
2022年 2.0人

1990年の時点では、高齢者1人に対して現役世代は6名近くいました。しかし2022年になると、現役世代2人で高齢者1人を支えなければなりません。必然的に職場においても「親を介護している」という従業員が多くなるでしょう。介護と仕事の両立という点でも、ワークライフバランスは注目されています。

女性の社会進出と男性も育児に携わる時代の到来

昭和の時代は「男は仕事、女は家庭」という価値観が主流でした。しかし令和の時代は働く女性も珍しくなく、むしろ女性も働くことが求められる時代に変わりました。国は15歳から64歳の女性の労働力率について、2021年の時点で73.3%に達していることを公表しています。このうち正規労働者の比率は46.4%であり、多くの女性が正社員として働いています。

一方で育児や家事の役割も、専ら女性の役割という時代は終わりました。今は男性も育児や家事に携わることが求められています。そればかりでなく育児を楽しむ男性を「イクメン」と呼ぶほど、男性の育児参加が支持される時代となりました。国も男性の育児休業取得を積極的に推進しています。

これらの変化があり、男性・女性に関わらず、ワークライフバランスが求められる時代となっています。

終身雇用の崩壊

ワークライフバランスが注目される背景には、終身雇用の崩壊もあります。充実した人生に向けて、社外の人とのつながりを自力で見つけることが必要な時代を迎えました。

終身雇用が当たり前の時代なら、職場で人間関係を完結できました。しかし転職や有期雇用が珍しくない時代、1つの企業にすべてを預けると離職したときにすべてを失う事態になりかねません。もし離職を余儀なくされたとしても、社外での活動などご自身の居場所があれば精神的に楽でしょう。心身の健康を守る観点でも、ワークライフバランスは重要です。

働き方に関するおもな用語との相違点

働き方に関するおもな用語との相違点

働き方については、さまざまな用語がすでに使われています。ワークライフバランスとは、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは働き方をより良くするテーマで使われる3つの用語を取り上げ、相違点を解説します。

テレワークとの相違点

ワークライフバランスとテレワークは、目的と手段の関係にあります。テレワークはオフィスや職場に限らず、自宅やコワーキングスペース、リゾート地や移動中の車内など、さまざまな場所で業務を行う方法です。IT技術の進化により、テレワークを行える職種や業種が増えました。

テレワークにより職住近接が実現すれば、家庭で過ごす時間や地域に貢献できる時間が増えます。通勤時間が減ることは、代表的なメリットです。ワークライフバランスも実現しやすくなるでしょう。

業務改革や業務改善との相違点

業務改革や業務改善とワークライフバランスは、いずれも企業をより良くする目的で行われる取り組みです。一方で目指すゴールは、それぞれ異なります。


施策 施策のゴール
業務改革 組織や業務プロセスを見直し、目的に合わせて仕事の進め方を再構築する
業務改善 組織や業務プロセスを維持しつつ、より良い仕事の進め方を目指す
ワークライフバランス 従業員が仕事も私生活も充実できる環境を提供し、働きやすい会社にする

業務改革や業務改善は、業務の進め方という観点で進められます。残業時間が減るなどの効果があっても、あくまで副次的なものです。一方でワークライフバランスは、従業員にフォーカスを当てています。より良い労働環境を提供し、高いパフォーマンスを上げられるよう後押しする仕組みです。

働き方改革との相違点

労働者が多様な、また柔軟な働き方を目指す施策には、働き方改革も挙げられます。ワークライフバランスと類似していますが、働き方改革には「人手不足に対応する」「生産性をアップする」といった、経営側の視点も含まれます。ワークライフバランスよりも広い視点で語られることは、働き方改革の特徴です。

ワークライフバランスの実現で従業員が得る5つのメリット

ワークライフバランスの実現で従業員が得る5つのメリット

ワークライフバランスの実現により、従業員はさまざまなメリットを得られます。ここでは5つの項目を取り上げ、どのようなメリットが得られるか確認していきましょう。

ライフステージの変化による離職を防ぎ、経済的に安定する

従業員の立場で見た場合、経済的な安定を第一のメリットに挙げる方も多いでしょう。全員が一律の時間で働くルールにこだわると、育児や介護による短時間勤務に対応できません。妊娠や介護を機に離職すると、収入がなくなってしまいます。他社で働く、パート勤務を始めるといった方法もありますが、収入を維持できるとは限りません。

ワークライフバランスに理解ある法人では、働き続けることが可能です。育児や介護が必要な期間は休職や休暇制度を活用して休み、復帰すれば短時間勤務を活用して元の会社で働き続けられます。リスクを冒して転職する必要はありません。ライフステージの変化による離職を防ぎ、経済的な安定を得られることは大きなメリットといえるでしょう。

仕事への意欲が高まる

ワークライフバランスを重視する法人では、「自社は従業員を大切にしている」と思う従業員も多いでしょう。このような環境なら、仕事への意欲も高まります。社業に対して積極的に貢献しようという気持ちになり、能動的に働けるでしょう。モチベーションのアップも、ワークライフバランスを実現するメリットに挙げられます。

長期的な視点でのスキルアップが可能

ワークライフバランスに積極的な法人では、長期間在籍する従業員の率も高まります。数年かけてじっくりスキルアップするキャリアプランも進めやすいでしょう。高いスキルを備えた人材になり、自らの市場価値をアップできることもメリットの一つです。

家族を大切にでき、子育てや介護とも両立できる

家庭の雰囲気が良くなることも、ワークライフバランスの実現で得られる見逃せないメリットです。ワークライフバランスに理解ある法人なら、短時間勤務や中抜け、多種多様な休暇の取得が可能。子どもを保育園に預ける、介護をヘルパーに依頼するなどにより、働き続けることが可能です。仕事中は子育てや介護から解放される時間。気持ちに余裕ができるため、家庭の雰囲気も良くなるでしょう。

夫婦共働きも現実的な選択肢となり、収入を増やせます。育児や介護の費用を増やし、さらなる負担軽減につなげることも可能です。子育てや介護と両立しながら働けることも、大きなメリットの一つです。

心身ともに健康な状態で働き続けられる

ワークライフバランスの実現は、無理な働き方の抑制につながります。以下の効果も得られるでしょう。

  • 長時間労働の抑制
  • 家庭と仕事の両立
  • 健康状態に合った働き方の選択

仕事により健康を害するリスクが下がることも、見逃せないメリットです。心身ともに健康な状態で働き続けることができるでしょう。

ワークライフバランスの実現は職場にも良い影響をもたらす

ワークライフバランスの実現は職場にも良い影響をもたらす

ワークライフバランスの実現は、職場にもプラスの影響をもたらします。能力が高くやる気のある従業員の確保や企業イメージの向上は、代表的なメリットに挙げられます。企業が得られる5つのメリットを確認していきましょう。

離職率が下がり、人手不足にもなりにくくなる

ワークライフバランスを実現した法人は、離職率が下がりやすくなります。妊娠や介護、病気など、「働きたいのに離職しなければならない」という従業員を減らせることが理由です。休職中は人員が減りますが、復帰すれば在籍人数も元に戻ります。従業員の減少は一時的ですから、新規採用の人数は抑えられます。「いくら募集しても人が集まらない」といった、人手不足のリスクも少なくなるでしょう。

採用人数を抑えられることは、教育コストの削減にも結びつきます。1人1人に対してきめ細かい教育を行えるため、離職率も下がるでしょう。いま働いている従業員も離職しにくく、新たに採用した人員も離職しにくくなれば、貴社は多くの方にとって魅力的な職場と評価されるでしょう。

平均勤続年数が上がり、ノウハウが組織に蓄積しやすい

離職率が下がれば、長く働き続ける従業員も増えます。平均勤続年数も上昇するでしょう。貴社で働く間に身につけたスキルやノウハウは、それぞれの従業員で蓄積されています。

働き続ける期間が長いほど、蓄積するノウハウも多くなるでしょう。従業員どうしでノウハウを共有すれば、業務をより良く、より効率的に進められます。組織にノウハウを蓄積すれば、新入社員でも高いレベルの仕事をこなせます。蓄積されたノウハウにより組織全体のレベルアップを図れることも、見逃せないメリットです。

従業員のエンゲージメントが向上する

ワークライフバランスに配慮する職場は、働きやすいと思う従業員も多いでしょう。これにより会社に対する愛着心や業績アップに貢献したいという気持ち(エンゲージメント)が増します。より良い仕事を能動的に行う従業員が増えれば、売上や生産性、顧客満足度のアップだけでなく、離職率の低下や勤続年数の向上につながるでしょう。従業員と法人がWin-Winとなる取り組みです。

突然の欠勤でも、顧客に悪影響を与えない組織になれる

職場でワークライフバランスを実現する過程では、担当者がいない場合の対応を考える必要に迫られます。必然的に属人化を避け、チームで仕事をする雰囲気が醸成されるでしょう。

この結果、担当者が突然欠勤したとしても他の従業員でカバーできます。顧客への対応も、滞りなく行えるでしょう。自社の都合で顧客に悪影響を与えずに済むため、貴社の信頼がアップします。

企業イメージがアップし、優秀な人材から選ばれる

より良い人材を採用できることも、ワークライフバランスのメリットに挙げられます。慢性的な人材不足の時代、優秀な人材は職場を選べます。入社先として、条件の良い企業を選ぶでしょう。いくら熱いメッセージを伝えても、貴社のイメージが悪ければ入社してもらえません。

ワークライブバランスを実現していることは、企業を選ぶ重要な項目の一つです。「従業員を大切にする企業」というメッセージを与えられるため、企業イメージが上がり、優秀な人材の応募も増えるでしょう。高いレベルの応募者から内定者を出せばよいため、貴社に貢献する人材を採用しやすくなります。

ワークライフバランスを実現するデメリット

ワークライフバランスを実現するデメリット

ワークライフバランスはメリットの多い施策ですが、以下に挙げるデメリットもあります。

  • 同じ仕事量に対応するためには、より多くの従業員が必要。人件費が増加する
  • 育児や介護に携わっていない従業員、出社が必須の部署などから不満が出る可能性がある
  • 残業代をあてにしていた従業員は手取りの収入が減り、ライフプランに悪影響が出る
  • 完全テレワークを導入した場合は、孤独感を感じる従業員が出るおそれがある

法人にはコストアップが、従業員には不公平感や減収といった、大きな影響をおよぼします。業績や生活に影響を与えないよう、制度設計の工夫が求められます。例えば財務に余裕がある企業の場合は、減収のリスクに対して基本給や手当のアップで対応することも一つの方法です。

従業員の立場でワークライフバランスを実現する5つの取り組み

従業員の立場でワークライフバランスを実現する5つの取り組み

ワークライフバランスは働きやすくする仕組みである一方、楽をして仕事を行うことが目的ではありません。ワークライフバランスの実現には、従業員それぞれの工夫や取り組みも必要です。ここでは従業員の立場でワークライフバランスを実現できる、5つの取り組みを紹介します。

ON・OFFの切り替えをはっきりさせる

ワークライフバランスは、仕事もプライベートも充実させることを目的としています。就業中は業務に専念し、オフの時間はプライベートを楽しみましょう。家族サービスの実施や趣味の満喫、地域活動での活躍などが挙げられます。スキルアップも良い時間の使い方です。

そもそも、仕事中にプライベートのことを考えてばかりでは業務が進みません。またオフの時間に仕事のことが頭から離れないようでは、せっかくの休みも台無しです。ON・OFFの切り替えをはっきりさせることは、ワークライフバランスを実現するうえで重要です。

段取りを考え、効率的に仕事を進める

ワークライフバランスを重視する職場では、だらだら働くことが好まれない場合も多いでしょう。限られた時間で、高い成果をあげなければなりません。一度行った作業をやり直す「手戻り」や空き時間が生じる「手待ち」は、極力避けたいものです。

就業時間を最大限に活かすためには、段取りが重要です。他の作業との関係性を考慮し、最短の時間で済ませられるよう作業順序を考えましょう。効率的に進めれば仕事も早く終わり、プライベートの時間も多く確保できます。短時間で仕事を終えられることも、職場で評価されるポイントです。

家族との時間を大切にする

家族がいる方の場合、家庭は一日のなかで多くの時間を過ごす場所です。家族との関係が悪いと、憂鬱な気持ちで休みを迎えることになるでしょう。せっかくのオフも楽しめません。

一方で家族と良好な関係を築いていれば、退勤後や休みの日をリラックスして迎えられます。ワークライフバランスにも前向きに取り組めるでしょう。日ごろから家族との時間を大切にして、信頼関係を築くことが重要です。

社外の人との人脈づくりも積極的に行う

変化の激しい時代、会社から命じられた仕事をしっかりこなしていれば出世できるわけではありません。創意工夫を行い、日々の業務をより良くする取り組みが求められます。社外の知見を取り入れるには書籍やインターネットによる情報収集も有効ですが、社外の人から対面で得られる情報も重要です。

日々の生活を常に職場と家の往復で済ませることは、もったいないものです。仕事上の関係はもちろん、プライベートでも外に出て社外の人脈を積極的につくりましょう。交流会は代表的な手段であり、自治体や商工会議所など公的機関が開催する場合もあります。

在宅勤務や勤務形態を選べる企業に就職する

高い仕事能力をお持ちの方でも、日々決まった時間、決められた職場への出勤を求められるのでは、仕事以外に使える時間が限られてしまいます。在宅勤務を選べる企業なら通勤時間が短くなるため、オフの時間を増やせるでしょう。また時短勤務など勤務形態を選べる企業なら、育児や介護との両立もしやすいものです。働き方を選べる企業に就職することも、ワークライフバランスを実現する有力な方法です。

ワークライフバランスの実現に組織で取り組む9つの方法

ワークライフバランスの実現に組織で取り組む9つの方法

職場でワークライフバランスを実現する場合、法人の積極的な取り組みは欠かせません。一方で制度だけを決めても、なかなか実現には至りません。ワークライフバランスの実現には仕事の進め方や意識改革など、さまざまな改善や改革が必要です。

組織で取り組むべき項目は、多数あります。ここではワークライフバランスの実現に必要な、9つの方法を取り上げます。できるところから取り組み、労働環境の改善を実現してください。

「しっかり働き、しっかり休む」意識を浸透させる

ワークライフバランスを推進する企業では、しばしば生産性を向上して成果をあげる姿勢が求められます。このような企業では、遅くまで頑張る姿は美徳とされません。就業時間内はしっかり集中して働き、残業時間を抑えてしっかり休む方が評価されます。「定時で帰る人が優秀」という評価もされるでしょう。

そもそもワークライフバランスは、楽をして仕事をすることやプライベートの優先を意味しません。限られた時間内で成果をあげるため、工夫が求められるでしょう。職場で「しっかり働き、しっかり休む」意識を浸透させることが重要です。

属人化を排除し、仕事の標準化を推進する

ワークライフバランスを阻害する代表的な仕事の進め方に、担当者に任せきりにすることが挙げられます。他の従業員は状況を知らないため、担当者がいなければ業務が止まります。この状況では、おちおち休むわけにもいきません。

職場でワークライフバランスを実現したいなら属人化を排除し、仕事の標準化を推進しましょう。ドキュメントを整備し情報を常に共有して、誰でも業務が行える仕組みづくりが重要です。結果として担当者が休んでも、業務を止めずに済みます。顧客への影響も抑えられるでしょう。複数の従業員が業務をチェックし、改善する効果も期待できます。

休みを取りやすい組織風土づくり

必要なときに休みを取りやすい組織風土づくりも、ワークライフバランスを実現するうえで欠かせない項目です。休みを取ることが悪いと思うような企業風土では、いくら優れた制度を整えても使われません。ワークライフバランスを実現しにくいため、育児や介護、病気になった際には退職を余儀なくされるかもしれません。制度を活かし業績アップにつなげるためにも、組織風土の改革は重要です。

良い労働条件や給与の提示

ワークライフバランスの施策は、人員が充足している状態で始めると進めやすいでしょう。人員を確保するためには、良い労働条件や給与の提示も必要です。

労働条件も悪い、給与も低い会社に、応募者は集まりにくいものです。なかなか採用できないケースも多いでしょう。一方で人手不足の状態では業務をまわすことで手一杯となり、労働条件の改善にまで手が回りにくくなります。このような法人は、ワークライフバランスも実現しにくいでしょう。競合他社に遅れを取り、自社の競争力が低下して労働条件がますます悪くなる悪循環に陥りかねません。

ワークライフバランスを実現しやすい制度を用意する

ワークライフバランスを実現しやすい制度が用意されていれば、従業員の要望にもこたえやすいものです。従業員に役立つ制度の例を、以下に挙げました。

  • 短時間勤務(時短勤務)
  • 有給休暇を時間単位で取得可能
  • コアタイム無しのフレックスタイム制度を導入
  • 勤務中の中抜けが可能

多くの制度が用意されていると一見使いやすそうに見えますが、複雑に見えると使われにくいです。貴社の事情を踏まえて、適切な制度を用意することをおすすめします。

テレワークを推進する

テレワークの推進は以下のメリットがあり、ワークライフバランスの実現を後押しします。

  • 通勤時間を減らせるため、家族や地域活動で使える時間が増える
  • 帰省して実家の両親を介護するなど、居住地が変わっても働き続けることが可能

オフィスで働くだけが仕事のやり方とは限りません。必ずしもオフィスでしなくても良い仕事はテレワーク可にすることで、従業員の離職を防げます。また優秀な人材を全国から採用できるため、業績が上がり貴社の企業価値を上げる効果も期待できます。

自分だけでなく、家族や周りの人を大切にする企業風土づくり

企業が高い業績をあげる背景には、従業員の貢献があります。従業員が安心して働くうえでは、家族など周りの人の協力も欠かせません。例えば日々早朝から深夜まで働いた結果、家庭にトラブルが生じたのでは仕事に集中できません。

家族や周りの人が幸せであってこそ、従業員も安心して働けます。スムーズな業務の遂行には、従業員どうしの協力も欠かせません。ワークライフバランスの実現には「自分だけが良ければいい」と考えず、家族や周りの人を大切にする企業風土の醸成も求められます。

組織への帰属意識を高める取り組み

ワークライフバランスを重視すると、従業員がいつも同じ場所に集まって仕事をする機会が減る場合もあります。組織への帰属意識が弱くなるかもしれません。従業員によっては、孤独感を感じる場合もあります。

このような懸念が生じる場合は、「あなたは一人ではなく、組織で働いている」ことを見せる取り組みが有効です。帰属意識を高める効果が期待できるでしょう。希望者によるイベントやランチ会、部活動などは代表的な例に挙げられます。

福利厚生代行サービスを導入する

従業員の要望は、休暇以外にも多岐にわたります。育児や介護など、生活をサポートする制度を自社で設けることは負担が大きく、1社だけではなかなか充実したメニューを用意できません。

福利厚生代行サービスの導入は、この課題を解決する有効な方法です。あらかじめ豊富なメニューが提供されているため、従業員は好みのサービスを選んで使えます。ベビーシッターやホームヘルパーは代表的なサービスです。ワークライフバランスを側面から支援する制度として有効に使えるでしょう。

ワークライフバランスで働きやすさを実現した法人の事例

ワークライフバランスで働きやすさを実現した法人の事例

ワークライフバランスの実現は良いこととわかっていても、一歩踏み出せない法人様も多いのではないでしょうか?どのような働き方になるのか、仕事はうまく回るのかという点は、気になるものです。すでにワークライフバランスを実現した事例から、ぜひ学びたいという方も多いでしょう。

ワークライフバランスによる働きやすさを実現した法人は、多数あります。そのなかから3つの例を取り上げ、どのような取り組みを行ったか解説します。貴社で取り組むヒントとしてご活用ください。

製造業A社

製造業A社は、約160名の従業員を擁する企業です。もともとオフィスワークにこだわりが無かったこともあり、テレワークの導入を契機としてワークライフバランスを実現しました。以下のとおり、法人・従業員それぞれにメリットが得られています。


立場 メリット
法人
  • オフィス面積を縮小でき、家賃を約45%削減
  • 通勤費を約6割削減
  • 残業時間が約半分に減少
  • 新卒採用の応募者が5.5倍に大幅増加
  • 離職者が4割減少
従業員
  • 育休が取りやすい職場になる(女性は100%。男性の育休取得率も35.7%)
  • 時間単位年休制度を設けており、申請により短時間の中抜けも可能
  • オフィスから遠い場所でも、住みたい場所で仕事ができる

オンラインでの会議も積極的に導入しています。営業職はオンラインで顧客と打ち合わせを行い、技術職は直接現場で作業するといった業務スタイルを実現しました。出社する必要性を極力下げたため、従業員にとって働きやすい職場を実現しています。

認定こども園B園

人手不足が深刻な保育士の業界でも、ワークライフバランスを実現したこども園があります。かつては人材がなかなか集まらない悩みを抱えていましたが、以下の改革により人材の確保と働きやすい職場を実現しました。

  • 複数担任制を導入し、保育教諭の負担軽減と安全性の確保を実現
  • 育児休業ののち、短時間勤務か固定時間勤務を選べるようにした
  • 15日間の不妊治療休暇制度を導入
  • 相談しやすく協力し合える職場環境の実現
  • 子育て中の保育教諭に対して、子どもの学校行事に出席できるよう声掛けをする
  • 年2回職員と面談し、課題を聞き出し改善して働きやすい環境を維持する

この結果、風通しの良い職場を実現しました。平均勤続年数は11年と長く、結婚や出産後も9割以上の職員が仕事を続けています。2019年10月には「ユースエール認定」を受けました。この認定は若者の採用や育成に積極的で、優良な雇用状況であることの証明です。

流通業C社

流通業C社は、多様性と従業員一人ひとりの幸せを重視する経営を行っています。ワークライフバランスに関する施策を、以下に挙げました。

  • 1回当たり12日の連続休暇を、年2回取得可能
  • 出産や育児の充実したサポート(休暇制度、短時間勤務など)
  • 出産後、男性の育休取得を推進
  • 介護休暇や最長2年までの介護休職、短日数勤務制度、エリア限定勤務を導入
  • 女性リーダーや管理職、役員の割合をアップ

すでに男性の育児休業取得率は100%を達成しています。「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」も受賞しました。

できる取り組みから始め、ワークライフバランスを業績アップにつなげよう

できる取り組みから始め、ワークライフバランスを業績アップにつなげよう

ワークライフバランスは働くすべての方にメリットをもたらす取り組みです。働きやすく能力を発揮できる職場を実現するとともに、ステークホルダーから信頼を得て組織知を蓄積できるでしょう。従業員が日々いきいきと働けることも、見逃せないメリットです。

ワークライフバランスの実現には、従業員・法人様それぞれの積極的な取り組みが重要です。できることから始め、従業員の活力を業績アップにつなげましょう。