OKRは、挑戦的な目標を掲げて組織の成長や生産性向上を目指すマネジメント手法です。従来、日本企業で広く採用されてきた目標管理制度(MBO)とは思想が大きく異なり、個人の評価ではなく、企業・部門・チームといった組織単位での成果にフォーカスしている点が特徴です。
とはいえ、国内では導入企業が限られており、「名前は聞いたことがあるけれど、具体的な内容はよくわからない」という方も少なくありません。そこで本記事では、OKRの基本的な考え方から、他のマネジメント手法との違い、実際の設定例までをわかりやすく解説します。
OKR(Objectives and Key Results)は、組織の目標達成に向けて、短いサイクルで目標設定と成果評価を繰り返すマネジメント手法です。「Objectives(目標)」は組織が目指すべき方向性を示し、「Key Result(主要な成果)」はその目標を達成するために必要な具体的な成果指標を意味します。
もともとOKRは新しいものではなく、1970年代にインテルのCEOであったアンドリュー・グローブ(Andrew S. Grove)氏によって提唱されたマネジメント手法でした。当初はインテル社内での運用にとどまっていましたが、2000年代に入り、Googleをはじめとする先進的な企業が導入し始めたことで世界的に注目を集めました。近年では、従来の目標管理制度(MBO)に対する課題意識の高まりとともに、それに代わる手法としてOKRを評価する動きが広がっています。
OKRでは、短いサイクルでObjectives(目標)とKey Results(主要な成果)を設定して評価を行うのが基本です。
OKRにおける「Objectives(目標)」は、単に達成可能な範囲にとどまらず、あえて高いハードルを設けることで、組織やチームに挑戦を促す役割を担います。こうした目標は「ストレッチ目標」と呼ばれ、現状の延長線上では到達が難しいが、達成できれば大きな成長につながる内容が求められます。
Objectivesは定性的な表現で設定するのが基本です。例えば、企業全体の目標としては「業界ナンバーワンの地位を確立する」といった、明確かつポジティブなビジョンを掲げることが効果的です。
また、目標があまりに遠すぎると進捗の実感が得られにくくなるため、部門・チーム単位では3ヶ月程度で達成可能な短期的な目標を設定するのが一般的です。企業、部門、チーム、個人といった各レベルで目標を細分化する際には、それぞれが連動し、全体として整合性のある構造になるように設計することが重要です。
「Key Results(主要な成果)」は、Objectivesの達成度を測るための定量的な指標です。Objectivesが「何を目指すか」を示すのに対し、Key Resultsは「どのように達成するか」を具体的な数値で表現します。
たとえば、「売上を20%増加させる」「製品のクレームを月間5件以下にする」といったように、誰が見ても進捗が明確にわかる数値目標を設定します。
通常、1つのObjectivesに対して2〜5個のKey Resultsを設定するのが適切とされています。また、OKRはあえて高い目標を掲げることを前提としているため、Key Resultsの達成率は100%ではなく、60〜70%程度を目安とするのが一般的です。
OKRを組織の目標管理に取り入れることで、組織全体の連携や社員のモチベーション向上など、さまざまな効果が期待できます。ここでは、OKR導入による主なメリットを4つの観点から紹介します。
OKRでは、はじめに企業全体の目標を設定した後、それに関連した目標を部門・チームや個人単位で設定します。企業全体・部門の目標と自分の目標とが紐づいているため、目標を共有しやすくなります。また、企業が進むべき方向性と、社員一人ひとりが果たすべき役割との関係が明確になります。
OKRでは、定期的な進捗確認やフィードバックの機会が設けられるため、上司と部下、チームメンバー同士の対話が増加します。また、設定した目標や成果を可視化・共有することで、意見交換やコミュニケーションが活性化することが期待されます。
OKRでは、簡単には達成できない高い目標を掲げます。これにより、目標に到達できたときの達成感や成長の実感が得られやすく、モチベーションやエンゲージメントの向上が期待できます。
OKRでは、目標を達成するために必要な成果指標を設定します。そのため、業務の優先順位を判断しやすく、重要な業務にリソースを集中させることができます。
OKRとMBOは、どちらも代表的なマネジメント手法です。また、マネジメント手法ではないものの、目標管理でよく使用される指標としてKPIがあります。いずれも使われるシーンが似ているため混同しやすい概念ですが、それぞれの目的や使い方には明確な違いがあります。
OKR(Objectives and Key Results) | MBO(Management By Objectives) | KPI(Key Performance Indicator) | |
---|---|---|---|
提唱時期 | 1970年代(アンドリュー・グローブ) | 1954年(ピーター・ドラッカー) | 1992年(ロバート・カプラン、デビット・ノートン) |
目的 | 挑戦的な目標を通じてチームの成長/生産性向上を促す | 達成可能な目標を通じて個人のモチベーション維持/生産性向上を狙う | 目標の達成度合いを定量的に測定する |
対象 | 組織、チームの目標 | 個人の目標 | 組織の目標 |
標準の設定期間 | 3ヶ月 | 1年 | プロジェクトによる |
理想的な達成水準 | 60~70% | 100% | 100% |
KPI(Key Performance Indicator)は、組織の業績を財務、顧客、業務プロセス、学習と成長という視点から評価するバランススコアカードという手法で用いられる指標です。設定した目標(KGI)の達成度合いを測るために設定するもので、日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれます。OKR、KPI、MBOの中で、KPIのみがマネジメント手法ではありません。
つまり、KPIは達成度合いを測る指標であり、OKRは組織を対象としたマネジメント手法である点が大きな違いです。
MBO(Management By Objectives)は、社員が自ら目標や成果を目標管理シートに設定するマネジメント手法です。通称「目標管理制度」と呼ばれ、1950年代にピーター・ドラッカーが提唱した古典的な手法で、年1回程度のサイクルで目標達成度や途中経過を評価します。
MBOは、組織の目標ではなく、個人の目標を管理して自分自身のマネジメントやモチベーション維持を行うのが目的です。達成率は100%を求めています。
つまり、MBOは個人の目標管理と評価を目的として100%の達成度を求めるのに対して、OKRは組織全体の成長や方向性の共有を重視し、達成率は60〜70%程度が理想とされているのが大きな違いです。
ここでは、OKRを効果的に導入・活用するための5つのステップと、それぞれの階層での具体例を紹介します。
まずは、会社全体のビジョンや戦略に基づいたOKRを設定します。これは全社の方向性を示す旗印となり、すべての部門・チームのOKRの基盤となります。
企業全体のOKRをもとに、各部門やチームが自分たちの役割に応じたOKRを設定します。全社OKRとの整合性を保つことが重要です。
部門、チームのOKRに基づき、個人のOKRを設定します。現場の状況を正しく理解したうえで、社員自身が部門長と相談しながらOKRを設定します。設定したOKRは、社内で共有します。
OKRは設定して終わりではなく、定期的なレビューが不可欠です。部門単位では、3ヶ月に1回程度、目標と主要な成果に対する評価を実施します。個人単位では、1週間に1回程度、面談などを通じて進捗確認を行い、必要に応じて軌道修正を行います。
OKRはサイクル型の運用が基本です。1サイクル終了後には、振り返りを行い、次のOKR設定に生かします。
製造部門、営業部門などにおける OKRの具体的な設定例を紹介します。
・製造部門におけるOKRの例
Objectives | 製品の故障率を低下させ、顧客満足度を高める |
Key Results |
|
・営業部門におけるOKRの例
Objectives | 売上目標を達成し、顧客基盤を拡大する |
Key Results |
|
OKRの導入を検討する際には、事前に疑問点を解消しておくことが重要です。ここでは、OKRに関するよくある質問を3つピックアップして紹介します。
A:はい、併用することは可能です。
OKRはマネジメント手法、KPIは達成度を測るための指標です。それぞれの利用目的が異なるため、補完的に使うことができます。例えば、OKRでKey Resultsを設定した際に、達成度を測る指標としてKPIを活用すると効果的です。
A:報酬や人事評価と直接結びつけると失敗しやすいです。
OKRは挑戦的な目標を掲げて成長を促す仕組みで、60〜70%の達成でも成功と評価されることが理想です。MBOのようにOKRの達成度を報酬や人事評価に直接結びつけると、社員は達成しやすい目標を設定しがちになり、OKR本来の意義が失われます。そのため、報酬や人事評価とは切り離し、チームの生産性向上を目指す手法として運用することが重要です。
A:上位のOKRほど長期的に、下位ほど短期的に設定するのが一般的です。
企業のOKRは年単位で設定されることが多く、部門・チームレベルのOKRは3ヶ月程度で設定することが多いです。個人単位のOKRでは、月単位で設定されることが多く、2週間程度で見直すケースも珍しくありません。
これまで企業では個人単位の目標管理が主流でしたが、現在は組織目標と連動したチームでの目標管理であるOKRの導入が広まっています。
OKRは、部門やチーム単位での挑戦的な目標設定を通じて、組織全体の成長と成果を最大化するマネジメント手法です。社員の満足度向上と成果を追求する組織づくりにおいて、OKR導入は有効な第一歩となるでしょう。