マーケティングオートメーション(Marketing Automation/MA)は、その名のとおり、各種マーケティング活動を自動化すること、またはそれを実現するためのツールを指します。もともとはインターネットが普及する前の2000年以前に、顧客情報やコンテンツを管理・分析する目的で生まれました。当初はそれほど高いニーズはありませんでしたが、デジタルマーケティングの広がりにより需要が拡大しました。
MAを簡単に言い換えると、「人の手を介さずに、自動で判断したタイミングでデジタルマーケティング施策を実行する仕組み」です。さまざまなタッチポイントから収集した見込み顧客に対して、事前に設定したルールに従ってコンテンツやクーポン配信などの施策を自動で実行します。
MAには多くのメリットがありますが、注意すべきデメリットがあることも忘れてはいけません。MAを導入する際には、以下のメリット・デメリットを踏まえて検討することをおすすめします。
MAを導入することで、業務効率化や担当者の負担軽減が期待できます。特に近年はOne to Oneマーケティングの重要性が高まっており、MA導入による自動化は大きな効果をもたらします。
例えば、顧客データの管理や対象の抽出といった作業は今までマーケティング担当者が行っており、煩雑で時間がかかるものでした。それらの作業をMAが担当することで、担当者の作業負担を大幅に軽減でき、別の付加価値が高い業務に充てることが可能になります。
さらに、「一定期間内にAとBの条件を満たしたC属性の顧客にだけ、クーポン付きの誘導メールを送信する」といった複雑な条件分岐もスムーズに実行できます。迅速かつ効果的なマーケティングを実現することで、競争優位性を確保することが可能です。
一方デメリットとしては、MAの運用に専門知識が必要なことが挙げられます。多くの企業ではマーケティング人材の確保に課題感を持っており 、それがMA導入のハードルとなっています。さらにMAを導入したものの、使い方が難しい、または多機能すぎて使いこなせない、 といった事態が発生するリスクがあります。
最近は初心者でも使いやすい製品や手厚いサポート体制を提供している製品など種類も豊富になってきているため、自社の状況を踏まえて適切な製品を選定することが重要です。
現代においてデジタルマーケティングの重要性は非常に高く、市場で競争力を獲得するためには業種や企業規模に関わらず取り組むことが求められます。MAはその中心的な役割を果たしますが、大企業が積極的に活用を進めているのに対して、全体で見るとまだ導入率が高いとは言えない状況 です。
しかし、以下の2つの理由から、業種や企業規模を問わずにMAの重要度は増加しています。
一つ目は、顧客の購買行動の変化に対応するためです。インターネットの普及により、オフライン中心だった時代に比べて顧客が商品・サービス購入に至るまでのプロセスが大きく変化しました。顧客行動が細分化・複雑化したことで、企業はオンライン上でのコミュニケーションや、ユーザー一人ひとりに適したアプローチを行うOne to Oneマーケティングを重視するようになりました。効率的かつ効果的にマーケティング施策を実行する手段として、MAに対するニーズが高まっています。
もう一つは、企業がアナログ業務をデジタルへ移行する「デジタルシフト」が加速しているためです。社会全体でデジタル化が進むなか、多くの企業がデジタル化により組織やビジネスモデルの変革を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みを進めています。営業活動のデジタル化を行うMAは、その一環です。この流れは、新型コロナウイルス感染症対策の影響により一層顕著になっています。
さらに、DXを推進するうえでMAが収集・蓄積する大量のデータは、分析やAI向け学習データとして非常に重要な役割を果たします。そのため、MAの導入を検討する企業が増加しています。
マーケティング用語は横文字や略語が多いため、意味を混同しがちです。MA、SFA、CRMは、いずれもマーケティング分野で使用されるツールです。見込み顧客を獲得し、育成していくのがMAの役割で、その後のフェーズでSFAやCRMを活用します。一方ERPは、営業目的ではなく業務管理を目的に使用されます。
SFAは、営業活動を支援する目的で使用するツールです。主に案件に関する内容や商談履歴、顧客情報などを一元管理し、組織内での情報共有や効率的な営業活動を行えるようにします。
CRMは、商品・サービスの購入履歴やコンタクト履歴など、顧客と関連したデータを一元管理するツールです。企業が顧客との関係性を管理する目的で使用するもので、蓄積したデータを分析し、顧客満足度の向上や関係性の維持に役立てます。
CRMの導入事例や選び方などについて知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
MA、SFA、CRMがマーケティング分野で活用されるのに対し、ERPは主に経営分野で活用されるツールです。日本語では「企業資源計画」と訳されます。社内の業務プロセスを最適化する目的で使用され、会計、販売、人事、在庫管理などの基幹データを一元管理して全体最適化を図ります。
MAでは、見込み顧客を獲得してから商談に結びつけるまでの機能として、主に以下の7つを提供しています。
さらに近年ではAIの活用も進んでおり、高度な分析やスコアリング、確度の高いシナリオ作成、クリエイティブの自動生成などができる製品も登場しています。ツールを選定する際には、基本機能に加えて自社が求める機能を備えているかを確認しておくことをおすすめします。
マーケティング分野におけるリードとは、さまざまな営業活動によって獲得した見込み顧客のことです。これにはWebサイト経由で届いた資料請求や問い合わせ、さらにイベントやセミナーへの参加情報などが含まれます。獲得したリード情報はデータベースで一元管理され、名寄せ(重複して登録されている情報を整理する作業)を行い、付与されたタグや属性ごとに分類、絞込みができるようにします。
スコアリングは、リードが最終的に成約に至る確率を算出することです。「役職者は10ポイント」「ホワイトペーパーをダウンロードしたら20ポイント」など、リードの属性やアクションに対して点数を設定しておき、それに基づいて自動でスコアリングを行います。
従来は点数の設定を手作業で行っており、高い得点をつけるべき属性、アクションの選定が困難でした。AIを搭載したMAでは、大量のデータを学習することで精度が高い点数付けが行えるようになっています。
シナリオは、リードが特定の条件を満たした場合に実行するアクションを設定することです。「バナーをクリックしたらクーポンを表示する」など、誰に対してどのような施策を、どのタイミングで実行するかを設定します。製品によってはシナリオに基づいた施策を「キャンペーン」と呼ぶこともあります。
One to Oneメールとは、顧客一人ひとりに対応したメールのことです。同じ内容、同じタイミングで一斉に配信するのではなく、設定したシナリオに沿って、テンプレート内容をカスタマイズしたメールを配信できます。配信したメールは開封率やURLのクリック率などを取得できるようになっており、効果測定が可能です。このような処理を手作業で行うのは非常に手間がかかるため、MAを導入するからこそ実現できます。
顧客がメールやURL経由でアクセスするランディングページ(LP)やフォームは、別途CMSで作成するよりもMA内で作成したほうが効率的です。MAでは資料請求用のフォームやリードを誘導するランディングページを作成する機能を搭載しており、そこから取得したデータはデータベースに蓄積されマーケティングや分析に活用します。
MAでは、アクセス解析やリードの行動分析などを実施してレポーティングする機能が搭載されています。
リードごとの行動分析や配信したOne to Oneメールの効果などを自動で分析します。
組織で営業情報を一元管理するためには、MAを単独で使用するのではなく、SFAやCRMなど一連のツールと連携する必要があります。多くの製品ではAPI連携機能を提供しており、ツール間のデータ共有がスムーズにできるようになっています。
マーケティングオートメーション(MA)は、各種マーケティング活動の自動化・効率化を実現するために「人の手を介さずに、自動で判断したタイミングでデジタルマーケティング施策を実行する仕組み」です。MAを活用することで、確度の高いマーケティング施策を効率的に実行できるようになります。
さらにDXの推進、データ活用という観点からも、MAは重要な役割を果たします。
MAを導入する際には、自社のデジタル戦略を明確にしたうえで、適切な製品を選定することが重要です。単なる便利な自動化ツールとしてとらえるのではなく、DX実現につなげる重要な手段としてMAを役立ててください。