ICT(Information and Communication Technology)は、情報や通信に関連した技術の総称です。日本語では「情報通信技術」と訳されます。
ICTの指し示す範囲は広く、5GやIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)などのネットワークや通信サービスを始め、ソフトウェア、動画・音楽配信などのコンテンツサービス、AI、セキュリティなどが含まれます。これらの技術を活用して、業務や企業活動、生活などを高度化・デジタル化することをICT化と呼びます。
電子契約サービスを使用して紙の契約書をデジタルデータで管理するのは、ICT化の一例です。モバイルアプリを開発して社外から自社システムにアクセスできるようにしたり、Web会議システムを導入してオンラインセミナーを開催したりするのもICT化の一環です。
日本では以前からITという言葉のほうが使われていたため、「ICT」と「IT」の違いについて疑問を持つ方も多いでしょう。そこで、ここではICTとITの違いについて解説するほか、ICTと混同しやすい「IoT」と「DX」との関係についても説明します。
IT(Information Technology)は、ICTとほぼ同じ意味です。国際的にはICTという表記が多く使用されていることから、国内でもICTという表記が増えてきました。
ICTは、ITよりもコミュニケーションの部分を強調しているという見方もありますが、現在では情報技術に通信が不可欠なため、両者を使い分ける場面はほとんどありません。経済産業省ではIT、総務省ではICTという表記を主に使用していますが、どちらも情報通信技術を表しています。
DX(Digital Transformation)は、データとデジタル技術を活用してサービスや製品、またはビジネスモデルそのものを変革し、競争力を獲得することです。従来の電話による配車からスマホアプリによる配車サービスへの転換により、ビジネスモデルを変革した例などがあります。
企業がDXを推進する際には、ICTを活用してシステム化やデジタル化を行います。そのため両者は混同されがちですが、ICTは技術の総称であり、DXはその技術を用いた取り組みを指す点で異なります。
IoT(Internet of Things)は、センサー機器などを用いて機器をインターネットに接続する技術や仕組みを指します。遠隔からの機器のコントロールやICタグを使用した在庫管理のほか、近年では、高齢者の見守りを行う湯沸かしポットやトイレの空き状況通知など、IoTを活用して新しい価値を創出するサービスも増えています。
IoTはICTの一分野であるため、IoTの活用はICT活用の一環と言い換えることができます。
結論から言うと、業務効率化や生産性向上を実現し、組織力の強化や競争力の獲得を図るためにはICTの導入が不可欠なためです。さらに、ChatGPTをはじめとする生成AIなどの革新的かつ有用な技術が次々と登場し、これらの活用が企業にとって大きな武器になるとの認識が広がっていることもICT利活用の重要性を高めています。
その一方で、国内企業の情報化投資の状況を見ると、設備投資全体の2割弱にとどまり 欧米企業と比べて低い水準にあります。社会全体のデジタル化が加速するなかで、企業が顧客のニーズを満たしていくためには積極的な情報化投資と新しい技術への対応が求められます。
では、企業がICTを活用することで、どのような効果が期待できるのでしょうか。大きく「業務効率化の実現」「生産性の向上」「顧客サービスの向上」の3つが挙げられます。
小売店舗での無人レジ導入や、ホテルでのオンラインチェックインなど、ICTの活用により業務プロセスの効率化が図れます。またAIを活用した議事録の自動生成、IoTを活用した機器の遠隔操作、チャットボットによる問い合わせ対応など、業務量の省力化も実現します。さらに業務効率化により、人件費をはじめ、さまざまなコスト削減効果も期待できます。
RPAによるデータ転記作業の自動化や、ロボットによる荷物運搬など、ICTを活用して人間の作業を代替することで、生産性の向上が図れます。また、クラウドサービスなどを活用してリモートワークを推進することで、地方在住者や子育て・介護で長時間勤務が難しい人々を働き手として獲得しやすくなるため生産性向上にも寄与します。
スマートフォンから取得したデータに基づきユーザーの健康管理を行うアプリや、商品の使用方法を解説した動画コンテンツの提供など、ICTを活用して新たな価値を提供することで顧客サービスの向上が図れます。また、取得した顧客データやアクセス履歴などのビッグデータを分析することで、製品の改善や新たな機能の搭載などにつなげられます。
ICTは、教育、医療、製造など、あらゆる業界・分野で活用されています。ここでは代表的な例として、飲食業および行政でのICT活用事例を紹介します。
どちらもICTを活用することで、事業を継続するうえで障害となる課題を解決しています。
配膳ロボットは、スタッフに代わって料理や飲み物を運ぶ協働ロボット(人間と同じ空間で作業できるロボット)です。大手飲食チェーンがネコ型配膳ロボットを本格導入したことで、一気に認知度が向上しました。
飲食店は他の業界と比較して離職率が高い傾向にあります。特にホールスタッフは長時間立ちっぱなしで店内を動き回るため、作業負荷が高く負担が大きいのが特徴です。さらに慢性的な人手不足から過重労働になりやすく、スタッフの作業負担軽減や安定した働き手の確保が課題でした。
そこでICTを活用した配膳ロボットの導入により、スタッフの作業負担軽減やピーク時の回転率向上を図りました。機器の操作は簡単で、完成した料理をロボットに載せて行先の席番号をタップするだけで完了。アルバイトスタッフでも迷わず操作できるため、現場でもストレスなく受け入れられました。
政府や自治体は積極的にDXを推進しており、さまざまな場面でICT化を進めています。その一例が「書かないワンストップ窓口」です。
従来、役所の窓口では来庁者が手続きごとに申請書を記入する必要がありました。手続きごとに異なる用紙に氏名や住所を記入するため、「何枚も用紙に記入しなくてはならない」「記入方法がわかりにくい」といった課題がありました。また窓口担当職員にとっても、「申請書ごとに何度も似た内容を説明する」「手書きの申請内容を確認するのに時間がかかる」といった課題がありました。
そこで、複数のICTを活用した「書かないワンストップ窓口」を導入し、これらの課題を解決しました。職員が要件を聞き取りながらシステム上で受付を行うことで、来庁者は必要事項が印字された申請書類に署名するだけで手続きを完了できます。データ入力された内容はRPAがチェックし、職員の作業負担を軽減します。また引っ越しや結婚などに関連した手続きをワンストップで受付することで、来庁者が窓口を何カ所も移動する必要がなくなりました。この取り組みにより、来庁者の満足度が向上し、職員の作業時間も削減されました。
AIやIoT、ロボティクスなどのICT関連技術は急激に進歩しています。先進的な企業ではこれらの技術を積極的に導入し、需要予測による仕入れの最適化、機器の故障検知、ピッキング作業の自動化など、多くの成果を上げています。また、フィンテック、アグリテックなど、既存の業界とICTを結び付けた「X-Tech(クロステック)」の領域も拡大しており、ビジネスにおけるICTの価値は一層高まっています。
これらの先進技術は、潤沢な費用を持つ大企業だけでなく、中小規模の企業にとっても大きな可能性を持っています。多くの技術はクラウドサービスとして低コストで利用できるほか、ICT化を支援する政府・自治体の補助金も利用可能です。上手に活用することで、自社の製品・サービスの価値を高めることや、業務コストを大きく下げることができます。
さらに、ICTにより業務効率化や生産性向上を進めることは、DXの実現にもつながります。自社をどのように変革していくべきかのビジョンを持ち、ICT化や、その先にあるDXに取り組んでいくことが重要です。自社単独で取り組むのが難しい場合は、専門知識を持った外部企業と連携して不足している部分を補うという選択肢もあります。
ICT(情報通信技術)は、業務効率化、生産性向上、顧客満足度向上などを実現し、労働人口の減少や高コスト構造の改善といった課題を解決するための重要な技術です。さまざまな業界や分野で活用されており、現在では企業活動において欠かせない要素の一つとなっています。
AIなどの先進技術を活用したクラウドサービスの登場や、政府からの補助金など、企業がICTを導入するための環境が整備されている現在こそ、ICTを導入するベストタイミングです。これからICT化に取り組む企業は、自社の課題を明確にしたうえで、他社の事例を参考しながら適切なツール・サービスを選定することをおすすめします。
ICT活用を成功させるためには、社内でICTを活用するための人材育成を行うことや、専門知識を持った外部企業との連携、セキュリティへの配慮などが重要です。加えて技術革新が非常に早いため、乗り遅れないよう常に情報収集を行うことも大切です。