6G(第6世代移動通信システム)は、現在開発が進められている次世代の通信規格です。これは最先端の通信技術である5Gをさらに進化させたもので、将来的な通信ニーズに対応することを目的に開発されています。そのため、現時点では「これこそが6G」と定義できる標準規格はまだ存在しません。
スマホやタブレットで使用されている移動通信システムは、およそ10年周期で新たな規格に世代交代します。3G、LTE(4G)を経て2020年に商用開始した5Gに続く新規格として6Gが位置づけられています。実用化は2030年ごろを目標としており、世界中で研究開発が進められています。
6Gが実用化されると、5G以上に高速大容量、超低遅延、多数同時接続が実現します。さらに従来技術では実現が難しかった空や海、さらに宇宙での通信といった拡張性や、超安全・信頼性、超低消費電力なども実現し、私たちの生活や社会に大きなインパクトを与えると考えられています。
5Gと6Gとの主な違いは、5Gの特性をさらに進化させていることに加え、今までなかった新たな機能が追加されていることと、指し示す範囲が拡張しているという対象範囲の広さです。これにより、新たな可能性を開くことを目指しています。
6Gは「Beyond 5G」と言われるように、通信速度や信頼性など、あらゆる仕様で5Gを大幅に上回ることが期待されています。さらに、5Gにはない自律性や拡張性などの新たな機能も追加される予定です。また、6Gは単に5Gの次の無線通信というだけでなく、有線通信を含む陸地、海洋、さらには宇宙まで含めたカバーエリアの拡大を目指しています。これにより、より広範で包括的な通信環境の実現が期待されています。
6Gは、2030年代に向けてテクノロジーがさらに進化し、現在の5Gでは対応できない新たなニーズが生まれるという前提に基づき開発されています。
具体的には、2030年代にはデータ量や接続するデバイス数が大幅に増加すると予想されています。人との通信だけでなく、IoTによるモノとの通信需要も激増しており、より速い通信速度とより多くの同時接続数が求められています。これらのニーズを満たすために、5Gの10倍以上となる速度・接続数を実現できる6Gの開発と実現が不可欠となっています。
また、2030年代にはデータ主導型の社会への移行がさらに進むと予測されているほか、社会課題を解決するためのインフラとして、サイバー空間と現実世界を一体化する「サイバー・フィジカル・システム」の発展が期待されています。そこから生まれる高速・大容量のデータ通信需要を支えるためには、5Gを超える高度な通信が必要です。これらの要素が、6Gの開発を後押ししています。
前述のとおり6Gには明確な規格が策定されていません。しかし、通信各社では6Gに関するコンセプトをそれぞれ発表しており、そこから見えてくる「6Gが備えるべき特徴」を紹介します。
5Gの10倍以上、最大で100ギガビット/秒(Gbps)レベルの通信速度を提供します。これにより、大量のデータを瞬時に送受信することが可能になります。
5Gの10分の1となる0.1ミリ秒以下の遅延を目指しています。これにより、リアルタイムの通信が可能となり、遅延に敏感なアプリケーションの利用が広がります。
端末の同時接続数を5Gの10倍、つまり1平方kmあたり1000万端末の同時接続を目指しています。これにより、IoTデバイスの大量接続を実現し、より広範なネットワーク接続を可能にします。
AIなどの先進技術を活用し、人間の介入なしに機器が自動的に連携することを可能にします。これにより、利用者が有線・無線を意識することなく、最適なネットワークが自動的に構築されます。
モバイル端末や基地局が、HAPS(High Altitude Platform Station)や衛星などの異なる通信システムと接続できるようになります。これにより、従来通信ができなかった海や空、さらには宇宙などでも通信が可能になります。
遠隔医療や自動運転などに通信を使用することを考えた場合、極めて高い信頼性が求められます。そのため6Gでは、99.99999%という高い品質保証を目指します。また金融分野などで安全に通信が利用できるよう、高いセキュリティを実現する量子暗号を使用した安全性の実現を目指します。
現在の消費電力を100分の1程度に抑えることを目指しています。これにより、エネルギー効率の高い通信環境の実現を目指します。
6Gを実現するための要素技術のうち、特に注目したい技術として「テラヘルツ通信」「量子暗号」「HAPS」「センシング」の4つを解説します。
テラヘルツ帯と呼ばれる電波と光の中間にあたる周波数帯(100GHz~10THz)の電磁波を活用した通信技術です。今まで使用していた無線通信周波数よりも高い周波数帯を使用することで、従来の10倍以上の高速大容量通信が可能になると期待されています。
従来の暗号方式よりも強力な秘匿性を実現できる新しい暗号方式です。量子力学の性質を利用してデータを暗号化し、伝送します。最新の量子コンピュータを使用したとしても解読できない「情報理論的安全性」を実現できるのが特徴で、機密性の高い情報を安全に通信できるようになります。
高高度基盤ステーション(High Altitude Platform Station)の頭字語で、宇宙との境界面である高度20km付近の成層圏から、無人飛行機などを通じて通信サービスを提供します。「空飛ぶ基地局」と呼ばれることもあります。
HAPSを使用した通信により、通信インフラが整備されていない地域や災害でインフラが破損した地域などでも高速インターネット接続が可能になります。
センサーを使用して、温度、湿度、位置情報など、フィジカル空間(現実世界)のさまざまな情報を収集する技術です。IoTの中核的な要素技術であり、6Gにおいても、フィジカル空間の情報をサイバー空間(デジタル)で処理するために不可欠な技術です。センシングでは、精密な情報収集や高度な認識を実現するための技術開発、大量のセンサーを低コストで使用できるような供給体制の構築が求められます。
6Gの実現により、日常生活やビジネス、そして社会全体が大きく変化すると予想されています。例えば、産業分野では、IoTやロボット技術を生かして無人化・自律化を進めるスマートファクトリーへの移行が進みます。医療分野では、センサーがリアルタイム取得した生体情報をAI診断に活用するといった医療の高度化が可能になります。その他にも、VR技術を使用した遠隔操作やアバターによるリアルな体験、地上から宇宙にある機器への通信など、さまざまなことが実現します。
これらの変化は、いずれも6Gの超高速大容量や超低遅延といった特性を最大限に活用することで実現します。
世界各国で6Gの開発競争は激化しています。中国では2021年3月に公表された長期目標において6G技術の蓄積を進めることを明記、ヨーロッパでは、ノキア主導の6G研究プロジェクト「Hexa-X」および継続プロジェクト「Hexa-X-II」が実施されました。日本でも政府が6G開発を推進しており、さまざまな取り組みを進めています。
各国における6G開発関連の動向
国名 | 取り組み |
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中国 | ・「第14次5か年デジタル経済発展計画」で6Gネットワーク設備開発の促進を記載(2022年公表)。 ・チャイナユニコムとファーウェイが5Gと6Gをつなぐ大規模5.5Gネットワークを北京で試験導入(2024年1月)。 |
アメリカ | ・通信業界団体ATIS が6Gの導入、普及、商業化に向けた活発な市場を促進する業界団体「Next G Alliance」を設立。AT&T、Apple、Google、Microsoftなどが加盟。 |
EU | ・6G研究プロジェクト「Hexa-X」および継続プロジェクト「Hexa-X-II」実施 |
日本 | ・日本、アメリカ、カナダほか10か国政府が「セキュア・オープン・レジリエント・バイ・デザイン」を公表。6G開発においてオープンでグローバルな連携を推進することを合意(2024年2月)。 |
また、2024年4月には移動通信システム関連の規格策定を行う国際標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)が6Gのロゴを発表しました。仕様策定に関する議論もされており、標準化へ向けた取り組みが着々と進んでいます。
現在は4Gが主流であり、5G関連のサービスはまだ始まったばかりです。そのため、今から6Gに関する情報収集を始めるのは早すぎると感じる方もいるかもしれません。しかし、6Gについて理解を深めることは、新たなビジネスチャンスを探求したり、社会課題を解決したりするために重要です。ぜひ本記事を新しい可能性を見つけるきっかけにしていただければと思います。