ESGは、企業の持続可能な成長を評価する重要な基準です。 企業は長期的な成功を目指すとともに、社会全体に対する責任を果たすことが求められます。
ESGは頭文字をとったもので、それぞれの要素に意味があります。
それぞれの要素について詳しくみていきましょう。
企業が自然環境に与える影響を評価します。具体的には、温室効果ガスの排出量削減、エネルギー効率の向上、水資源の管理、廃棄物の削減、生物多様性の保護などが含まれます。
企業が自然環境に与える影響の具体例
温室効果ガスの排出量削減 |
工場や事業所での省エネルギー設備の導入
電気自動車やハイブリッド車への切り替え 再生可能エネルギーの利用拡大(太陽光発電、風力発電など) |
エネルギー効率の向上 |
LED照明の導入
高効率な空調設備の導入 製造工程の見直しによるエネルギー消費量の削減 |
水資源の管理 |
雨水の収集と再利用システムの導入
節水型の設備や機器の導入 水の再利用・リサイクルシステムの構築 |
廃棄物の削減 |
製品のリサイクル性の向上
梱包材の削減や再利用可能な梱包材の採用 食品ロスの削減に向けた取り組み(需要予測の精度向上など) |
生物多様性の保護 |
事業活動が生態系に与える影響の評価と対策の実施
自然保護区の設置や保護活動への支援 持続可能な原材料調達の推進(認証制度の活用など) |
再生可能エネルギーの導入 |
自社施設での太陽光発電や風力発電の導入
再生可能エネルギー由来の電力の調達 グリーン電力証書の購入 |
環境保護プログラムの実施 |
植林活動や海岸清掃などの環境保全活動の実施
従業員への環境教育の実施 環境NGOとの連携・支援 |
エコフレンドリーな製品の開発 |
省エネルギー性能の高い製品の開発
リサイクル材料を使用した製品の開発 製品のライフサイクルアセスメント(LCA)の実施 |
具体例は一例ですが、企業が自然環境に与える影響を多角的に評価し、具体的な取り組みを進めることがESGの環境側面において大切です。
企業が社会に対してどのような影響を与えるかを評価します。労働条件の改善、従業員の多様性とインクルージョン、地域社会への貢献、顧客の安全と満足度、サプライチェーンにおける倫理的な行動などです。
企業の社会的影響の具体例
【労働条件の改善】労働時間の短縮
ある企業が労働時間を短縮し、週休3日制を導入することで従業員のワークライフバランスを改善した。この取り組みにより、従業員の満足度と生産性が向上し、離職率が低下した。 |
【従業員の多様性とインクルージョン】インクルーシブな職場環境の整備
製造業の企業がインクルーシブな職場環境を整備し、障がい者の雇用を推進している。バリアフリーのオフィス設計や専門の支援チームを設置し、障がい者が安心して働ける環境を提供している。 |
【地域社会への貢献】地域イベントの主催
企業が地域イベントを主催し、環境保護活動やリサイクルプログラムを推進した。これにより、地域住民の環境意識が高まり、企業の環境保護活動が評価された。 |
企業はこれらの取り組みを通じて、社会的責任を果たし、持続可能な成長を実現することを求められます。
企業の経営体制や透明性、倫理的な経営がどのように実施されているかを評価します。取締役会の構成と独立性、役員報酬の透明性、株主の権利保護、内部統制、汚職防止などが評価対象です。
企業統治の具体例
【役員報酬の透明性】役員報酬の公開
企業が、役員報酬の構成と金額を詳細に公開した。基本給、ボーナス、株式報酬などの内訳を明示することで、ステークホルダーに対して透明性を確保し、信頼を獲得できる。 |
【内部統制】内部監査部門の強化
医薬品メーカーでは内部監査部門を強化し、定期的な監査を実施している。内部監査は、業務プロセスやリスク管理の評価を行い、問題点の早期発見と改善を促進する。 |
企業はこれらの施策を通じて、持続可能な成長を目指し、ステークホルダーからの信頼を得られます。
ESGが注目される背景には、オールド資本主義の考え方により環境破壊や労働者からの搾取、企業の不正が発生したという歴史があります。持続可能な社会のために問題を解決し、企業の経済活動を見直す必要があるからです。
1990年以降、社会的責任投資(SRI)の考え方が広まり、日本でも企業の社会的責任(CSR)が重視されるようになりました。2006年には国連がPRI(責任投資原則)を提唱し、ESG視点を取り入れるよう求めています。
ESG投資について、以下の3つの観点で解説します。
それぞれ詳しくみていきましょう。
ESG投資の基本的な考え方は、企業の長期的な持続可能性と社会的責任を評価することです。
企業は持続可能性を維持するためには、今の利益を追求するだけでは不十分です。例えば、環境に配慮せずに大量の資源を使い尽くすと、将来的にはその資源が枯渇してしまい、企業の存続が危うくなります。また、環境に配慮した製品やサービスを提供する企業は、消費者からの支持を得やすく、結果として売上が伸びることも多いです。
ESG投資を行う投資家は、企業の長期的な成長と持続可能性を重視します。短期的な利益は一時的なものであり、長期的にみれば持続可能な経営を行う企業の方が、安定した収益を上げられるからです。
ESG投資にはいくつかの種類がありますが、代表的なものを紹介します。
特定の基準に合わない企業を投資対象から除外する方法
具体例 | 環境破壊や人権侵害に関与する企業を除外 |
メリット | 簡単に実施でき、明確な基準を持つことが可能 |
デメリット | 投資機会の損失、限定的な影響力 |
持続可能性や社会的責任に優れた企業を選別して投資する方法
具体例 | 再生可能エネルギーを活用する企業を選定 |
メリット | 高い社会的責任を果たす企業に資金を集中させ、ポジティブな変化を促進 |
デメリット | 評価基準の設定が難しく、主観的な判断が含まれる可能性もある |
投資家が企業と対話し、持続可能な経営を促す方法
具体例 | 株主提案や議決権行使を通じて企業の環境対策を強化させる |
メリット | 企業の改善を直接的に促進でき、長期的な影響を与えることが可能 |
デメリット | 対話や影響力行使には時間とリソースが必要 |
社会的・環境的に有益なプロジェクトや企業に直接投資する方法
具体例 | 地域の再生可能エネルギープロジェクトや社会起業家への投資 |
メリット | 具体的で測定可能な社会的・環境的インパクトを提供し、地域社会の発展に寄与 |
デメリット | 高リスクのプロジェクトが含まれる可能性もあり、投資リターンが不確実な場合がある |
ここで紹介したのは、代表的なESG投資の種類です。それぞれ、メリット・デメリットがあり投資家が自分にあった種類を選ぶ必要があります。
ESG投資のメリットとデメリットについて、表にまとめました。
メリット |
リスク管理の向上
競争力の向上 資金調達の機会拡大 |
デメリット |
評価基準の多様性
短期的な利益の減少 コストの増加 |
メリットとデメリットを踏まえ、投資家は企業の長期的な成長と持続可能性を重視しながら、より良い投資判断を求められます。ESG投資は、企業と社会全体の持続可能な発展に寄与する重要な手段です。
ESGと関連してよく出てくる以下の用語について、解説します。
それぞれ詳しくみていきましょう。
SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年に国連が策定した、2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットからなる国際的な目標です。
ESGは主に企業や投資家が使用する評価基準ですが、SDGsは政府、企業、市民社会などあらゆるステークホルダーが目指すべき目標であり、地球全体の持続可能な発展を目指しています。
CRS(Corporate social responsibility)とは、企業が自社の利益だけでなく、社会全体の利益や環境保護を考慮して行動する責任のことを指します。
ESGは投資家の視点から企業の持続可能性を評価するための基準であり、定量的な評価を重視します。一方、CSRは企業が自主的に行う社会貢献活動全般を指し、活動の範囲が広いです。
SRI(Socially Responsible Investment)とは、投資判断を行う際に、企業の経済的なパフォーマンスだけでなく、その企業がどの程度社会的責任を果たしているかを考慮する投資の方法です。
ESGは企業評価のための具体的な基準を提供し、投資判断に利用されます。SRIは、投資の全体的なアプローチであり、ESG基準を含む広範な社会的責任を考慮した投資手法です。
企業がESG経営を実践するためには、以下のステップが重要です。
1. 経営陣のコミットメント
具体的な取り組み |
方針の策定
リソースの割り当て リーダーシップ |
メリット | 企業全体でESGに対する理解と協力が深まり、効果的な取り組みが実現 |
2. ステークホルダーとのコミュニケーション
具体的な取り組み |
定期的な報告
フィードバックの収集 パートナーシップの構築 |
メリット | ステークホルダーとの良好な関係を築き、企業のESG活動に対する信頼と支持が高まる |
3. 継続的なモニタリングと改善
具体的な取り組み |
KPIの設定
内部監査 改善策の実施 |
メリット | 変化する環境や社会のニーズに柔軟に対応し、持続可能な経営を維持 |
ESG経営のステップを実践すると、企業は持続可能な成長を実現し、社会的責任を果たせます。
経営陣の強いコミットメント、ステークホルダーとの積極的なコミュニケーション、継続的なモニタリングと改善を通じて、企業は変化する環境や社会のニーズに柔軟に対応し、長期的な成功を目指していきましょう。
国際的なESG規制の動向や各国のESG推進政策も重要です。
例えば、ESG経営を強化するためには、海外の規制にも気を配る必要があります。具体的には、新しい規制に応じて、サプライチェーンにおける労働条件と環境影響に関する詳細なデータを開示する場合もあります。これにより、ESGに関する透明性が向上し、ESG投資家からの支持を集められるのです。実際、国際的にもESG投資額は増加傾向です。
これらの要素を理解することで、企業はグローバルな視点からESG経営を強化できます。
反ESGの背景と主張についても理解しておくことが重要です。
反ESGには、コストが増加するなどの経済的理由や政府規制への反発などの背景があります。また、主張としては規制が過剰になってしまうのではないか、イデオロギーの押しつけではないかとの意見もあります。
反ESGの動きや主張を理解し、適切な対策を講じて、企業は持続可能な成長を目指し、社会的責任を果たさなければいけません。
ESGは企業の持続可能な成長を評価するための重要な基準であり、環境、社会、ガバナンスの観点から企業の活動を総合的に評価します。
ESG投資の普及により、企業は短期的な利益だけでなく、長期的な持続可能性と社会的責任を果たすことが必要です。
企業はESG経営を実践すると、持続可能な社会の実現に貢献し、競争力を向上させられます。