スペースモバイル計画は宇宙に打ち上げた人工衛星を活用して、日本の隅々まで電波を届ける取り組みです。地上にある地上局(ゲートウェイ)と人工衛星、人工衛星とスマートフォンは、双方向での通信が可能です。上空にある人工衛星を間に挟むことで、山間部や離島、海上など基地局を設置しにくい場所にも携帯電話サービスを提供できます。
人工衛星を使った通信は、他社も取り組みを進めています。スペースモバイル計画の詳細や他社の取り組み状況について、3つの観点から確認していきましょう。
スペースモバイル計画で使う人工衛星は、楽天モバイルと提携するアメリカの「AST SpaceMobile」社が打ち上げたものを使います。2024年2月現在、AST SpaceMobile社は2022年9月に打ち上げた「BlueWalker 3」衛星を運用しており、以下の成績を残しています。
将来は新たな人工衛星の活用により、最大 120 Mbps のデータ伝送速度を実現できる可能性もあります。
楽天モバイルはAST SpaceMobileと共同で、人工衛星を使った国内でのモバイル・ブロードバンド通信サービスを、2026年内に日本国内で提供を目指す予定です。これに向けて、実用化への準備が進んでいます。2023年4月には低軌道衛星によるモバイル・ブロードバンド通信を使用した、市販スマートフォン同士のエンドツーエンドでの音声通話試験に、世界で初めて※成功したことを公表しました。
楽天モバイルが公表したプレスリリースは、以下のリンクからご参照ください。
楽天モバイル、AST SpaceMobileとの衛星と携帯の直接通信による国内サービスを2026年内に提供を目指す計画を発表
楽天モバイルと米AST SpaceMobile、世界初となる低軌道衛星と市販スマートフォンの直接通信試験による音声通話に成功
人工衛星を活用した通信は、他の大手携帯電話会社も取り組んでいます。なかには2024年内の提供を予定している会社もあります。楽天モバイルはスペースモバイル計画を進めることで、手頃な料金で手軽にどこでもスマートフォンがつながる便利さを提供します。
スペースモバイル計画は、日本で特に求められています。日本特有の課題を解決でき、サービスエリアの拡大に大きく寄与することでしょう。なぜ日本の状況にスペースモバイル計画がマッチするのか、3つの理由を解説します。
日本は山がちで、多くの離島を持つ国です。国土地理院は、国土の75%が山地であると公表しています。また離島も多く、14,125の島を持つ国です。有人島に限っても、416の島があります。本土から直接アクセスできず、他の島を経由しなければならない「二次離島」も少なくありません。
山地の奥や離島に基地局を設置することは、市街地よりも困難です。山深い地域では、道路が整っていない場合も少なくありません。工事資材の運搬やメンテナンスがしにくいため、基地局設置の難度は高まります。離島の場合は、アクセスそのものも限られます。
このため地上の基地局を設置する方法では、山奥や離島の無人地帯をすべてカバーすることは困難です。人工衛星を活用すれば、これらのエリアもカバーできます。
日本は、広い海を持つ国です。小笠原諸島など、船でしか移動できない離島も少なくありません。また近年では快適性の向上により、フェリーの旅も注目されています。
フェリーの場合、陸地や有人島の近くを航行している間は電波を拾えるものの、外洋に出ると電波が届かなくなるためスマートフォンによる通話や通信はできません。人工衛星の活用により、船舶での移動中どこでもスマートフォンを使えることは、旅行中の快適性向上に大きく貢献します。離島でのアクティビティも予約しやすくなるため、ビジネスチャンスの拡大にも貢献するサービスです。
現代は、スマートフォンや携帯電話が不可欠の社会です。通信の寸断は住民に不安を与え、社会に深刻な影響をもたらします。能登半島地震では、船上基地局を設置して対応した通信会社もありました。
人工衛星を使えば、被災地でも迅速に電波を届けられます。被災者に必要な情報を、タイムリーに提供する手助けとなるでしょう。
「スペースモバイル計画」の実現に必要な設備や機器は、大きく3種類にまとめられます。それぞれの説明や機器について、特徴を確認していきましょう。
低軌道衛星は人工衛星のひとつで、電波を離れた場所に送るうえで重要な役割を果たしています。人工衛星というと気象衛星「ひまわり」を思い浮かべる方も、多いのではないでしょうか。「ひまわり」は高度36,000kmを周回していますが、携帯電話通信に活用する人工衛星はもっと地表に近い位置を周回しています。AST SpaceMobile社の衛星は高度730km上空に打ち上げられ、地上と情報をやり取りしています。
携帯電話やスマートフォンは、利用者が人工衛星と通信する目的で活用できる端末です。他の設備は運営会社などで準備しますが、端末だけはユーザー側で準備しなければなりません。楽天モバイルは4Gや5Gの携帯電話やスマートフォンで通信できるよう、技術開発を進めています。
地上設備(ゲートウェイ)は、地上にある基地局と人工衛星をつなぐ重要な設備です。基地局からの下りの電波はゲートウェイから人工衛星へ発射され、人工衛星からスマートフォンへと伝わります。また上りの場合はスマートフォンから基地局まで、逆向きで伝えられます。
ゲートウェイは人工衛星とスムーズに通信できるよう、見通しの良い場所に設置する必要があります。通信に干渉する電波が無いことも、ゲートウェイ設置における重要な要件です。
スペースモバイル計画の実現により、利用者は生活や実務に役立つ4つのメリットを得られます。それぞれのメリットはなにか、順に確認していきましょう。
スマートフォンを使えるエリアが大きく広がることは、スペースモバイル計画の実現で得られる主なメリットの一つです。以下の場所や業務でも、スマートフォンやモバイル通信を使えるでしょう。
これまで圏外になることが多く、スマートフォンを活用できなかったエリアでも、携帯電話回線を使って業務を進められることは大きなメリットです。
スペースモバイル計画の実現後は、災害により基地局が故障した場合でも通信を確保しやすくなります。日経BPではビームフォーミングを活用し、直径24kmをエリア化する技術を活用することを示しています。
基地局が故障しても、移動基地局車の到着や可搬型基地局の設置を待たずに、速やかに通信を確保できることは魅力的です。電波が届かなくなったエリアでも、スマートフォンを使えなくなる心配はいりません。
また大規模イベントでは利用者が急増します。設置済みの基地局はふだんの利用者数に合わせているため、イベント開催中はつながりにくいという問題が起こるかもしれません。スペースモバイル計画の実現後はイベント開催地に電波を集中させることができるため、大規模イベントでもつながりにくいというトラブルを減らすことが可能です。
スペースモバイル計画が実現すれば、日本全国どこでもスマートフォンや携帯電話回線を使ったサービスを受けられます。これにより、無線通信を使ったサービスのビジネスチャンスが広がります。一例を以下に挙げました。
これまで無線通信の活用が難しい場所や場面でも、スマートフォンを使えるわけです。新たなサービスを企画したい法人やアプリ制作企業などにとっては、ビジネスチャンスといえるでしょう。
人工衛星を使った通信を行う場合は、専用の端末を用意しなければならないことがこれまでの常識でした。しかしスペースモバイル計画では、今の4Gや5Gにつながる端末でそのまま通話・通信可能です。これまでと同じ使い方で、人工衛星を介した通話・通信ができます。現在利用可能なすべての端末が人工衛星を使った通信に対応するとは限りませんが、地上の基地局用と衛星通信用でスマートフォンを2台持ちする必要はありません。
人工衛星を使った通信サービスを2026年内に提供を目指す計画であるため、楽天モバイルはさまざまな取り組みを行っています。おもな3つの取り組みを確認していきましょう。
地上と人工衛星との距離の長さは、電波の拾いにくさにつながります。楽天モバイルは、高度730kmもの高さにある人工衛星とデータをやり取りするわけです。特にスマートフォンや携帯電話からの電波をどう受信するかは、課題に挙げられます。
この課題は全長24メートルのアンテナを使い、微弱な電波をキャッチすることで解決する計画です。楽天モバイルは専用端末を使わず、4Gや5Gでの通信を実現できるよう取り組んでいます。
AST SpaceMobile社が打ち上げた「BlueWalker3」を活用し、楽天モバイルは日本国内で人工衛星を使った通信の実証実験を進めています。2022年11月には実験試験局免許の予備免許を取得し、ゲートウェイ試験局を福島県内に設置したことを公表しました。加えて2023年8月以降に、北海道において実証実験を行うことが公表されています。
規制緩和も、スペースモバイル計画の実現に向けた重要な取り組みです。今の法令では、皆さまがお持ちのスマートフォンで人工衛星と通信できないためです。
現行制度の場合、携帯電話で人工衛星とやり取りする場合は、「携帯移動地球局」の免許が必要です。一方で今の携帯電話は「陸上移動局」という免許ですから、このままでは人工衛星と電波をやり取りできません。
楽天モバイルでは規制緩和や法令改正に向けて、総務省などの関係省庁と議論を行っています。この取り組みについては、「「スペースモバイル」でどこでもつながる通信へ、楽天モバイルの挑戦」記事もご参照ください。
少し前まで、「人工衛星を使って日本どこでもスマートフォンがつながるようにする」ことは夢のように感じられたかもしれません。しかし技術の進歩により、どこでもスマートフォンがつながる未来が実現しつつあります。楽天モバイルではさまざまな課題をクリアし、実現へ向けてチャレンジしております。
圏外を気にせず、スマートフォンや無線通信を活用できる。災害や大規模イベントのように、電波が欲しいときこそ役立つ携帯電話サービス。これらが実現された未来は、もうすぐやって来ます。今後の楽天モバイルの取り組みに、ぜひご期待ください。