電子帳簿保存法は、企業会計に関するデータをどのような方法で保存すべきか定める法令です。仕訳帳や固定資産台帳などの帳簿だけでなく、領収書や請求書などの証憑類についても保存方法が定められています。
とりわけ法人への影響が大きくなる項目に、電子データで届いた書類の扱いが挙げられます。この場合は紙での保存が認められず、電子データの形で保存しなければなりません。
インターネットが普及した現代、事業活動ではさまざまな電子取引を行っています。一例を以下に挙げました。
オフラインでも、電子取引に該当するやり取りはあります。USBメモリなど記録媒体でのやり取りも、電子取引に該当することに注意が必要です。
電子取引のデータを保存する方法は、大きく3種類に分かれます。以下の表にまとめました。
保存方法 | 概要 |
---|---|
電子帳簿等保存 | パソコンで作成した帳簿や書類を、電子データの状態で保存する。紙に出力して保存することも可能 |
スキャナ保存 | 紙で作成、または紙で受け取った書類を、スキャナで読み込み電子データとして保存する。紙は残しても残さなくても構わない。帳簿に該当する場合はスキャナ保存不可 |
電子取引データ保存 | 取引に関して受領し、または相手方に交付する書類で、電子データによりやり取りするもの。領収書や注文書、見積書、契約書、請求書など。紙に出力して保存することは認められない |
この記事では影響が大きい「電子取引データ保存」を中心に、「電子帳簿等保存」や「スキャナ保存」の解説も行います。
国税庁では、帳簿と書類を区別しています。代表的な例を、以下に挙げました。
帳簿書類等の種類 | 代表的な例 |
---|---|
帳簿 | 仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳 |
書類 | 棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書 |
電子帳簿保存法において、電子データで受け取った書類は電子データでの保管が義務となります。社内ルールで「書類はすべて紙で保管する」と定めていても、税務調査が行われた場合は電子データを提示できるようにしなければなりません。
このため、紙での統一した書類管理はできません。どうしても紙で保管したい法人は、紙と電子データの二重管理が必須となります。
電子帳簿保存法がいつから適用されるのかという点は、どの法人も気になるでしょう。対象となる法人や書類についても、詳しく解説します。
電子帳簿保存法のなかでも書類を電子データで受け取った場合、電子データの状態で保存しなければならないことは業務に大きな影響があるポイントです。この義務化は、2024年1月1日から始まっています。今年受け取った電子データは、たとえプリントアウトしたとしても7年間大切に保管しなければなりません。
書類を電子データで受け取った際の義務化は、電子帳簿保存法の改正により2022年から始まっていました。しかし事業への影響が大きい変更であるにも関わらず、理解は進んでいませんでした。直前になって変更点が明らかになったため、苦情の声が続々とあがったことを記憶する方も多いのではないでしょうか。
このことを受けて、国税庁は2022年と2023年の2年間を「宥恕(ゆうじょ)措置」の対象期間としました。宥恕措置の期間中は、書類を電子データで受け取った法人が紙で保存しても良いとされていました。このため、今までは紙で統一して保存してもよかったわけです。
2024年1月1日からは宥恕措置に代わり、猶予措置が設けられます。国税庁は代表的な例としてシステム等の整備が間に合わず、原則的なルールに従って電子データを保存する環境が整っていないケースを挙げています。この場合は引き続き紙に印刷して保存できますが、税務職員から電子取引データの提示が求められた場合はデータで提示しなければなりません。
猶予措置は宥恕措置と異なり、誰もが使える措置ではありません。例えば「新しい法令への対応は面倒なので、今までどおり紙で保存」という理由は認められないことに注意が必要です。また猶予措置はいつまでも対象となるわけではないため、早めに本則どおりの対応ができるよう準備しましょう。
電子データの保存義務は、会計ソフトなど経理をパソコンで行う方に限りません。取引先から経理業務に関係する書類が電子データで届く方は、すべて対象となります。紙で帳簿をつけている方でも、以下のいずれかに該当する場合は対応しなければなりません。
一方で帳簿はすべて紙でつけており、領収書や注文書など取引に必要な書類はすべて紙でやり取りする法人で、スキャナも使わない。このような場合は、電子帳簿保存法の改正による影響を受けません。
電子保存の対象となる書類は、作成方法や受け取り方法、書類や帳簿の種類により異なります。以下の表でご確認ください。
作成方法 | 概要 |
---|---|
パソコンで自ら作った帳簿や書類 | 電子保存の対象。電子データでも書面でも保存できる(電子取引に該当する書類は電子データのみ保存可能) |
電子取引に該当する書類 | 電子データでの保存が必須(紙にプリントアウトして保存する方法は不可)。領収書や注文書、見積書、契約書、請求書などが該当 |
紙で作成、または受け取った書類や帳簿 | 帳簿は対象外で、紙の状態での保存が必要。書類はスキャナを活用し、電子データとして保存できる |
スキャナ保存の要件は、「紙の書類をスキャナ保存する場合の要件」で詳しく解説します。
電子データの保存にあたり、電子帳簿保存法は5つの要件を定めています。保存にあたり税務署の事前承認は不要ですから、要件を揃えた時点で始めることが可能です。保存方法によっては、今日から始めることもできます。
実際にはどのような要件を満たさなければならないのでしょうか。詳しく確認していきましょう。
改ざんを防ぐ措置を取ることは、重要な要件に挙げられます。以下のうち1つの項目を満たしてください。
2番を選ぶ場合は、データの受け取りや送信を行ったのち、おおむね7営業日以内にタイムスタンプを付与すれば要件を満たせます。業務処理サイクルを定めている場合は、その期間を加えることができます。但し、最長で2カ月と7営業日以内にタイムスタンプを付与しなければなりません。
1番から3番は、何らかのシステム導入が欠かせません。一方で4番は特別なシステムの導入をしなくても進められるため、この方法を選ぶ法人も多いのではないでしょうか。
もし税務職員からデータの提示が求められた場合は、速やかに出力できる体制を整えていなければなりません。このため法人には、ディスプレイやプリンタの備え付けが必要です。
もっともディスプレイは法人でパソコンを使う際に必須の機器ですから、この点は問題ないでしょう。プリンタも多くの法人で使われる事務機器ですが、以下に該当する場合は社内に設置されていないかもしれません。
社内にプリンタが無い場合は、自社で使えるプリンタを用意してください。なおコンビニなど、近隣にいつでも使えるプリンタを備えた店舗がある場合は、この方法で代えることもできます。
検索が可能なことも、電子取引データの保存要件に挙げられます。原則として1番から3番、または1番と4番の項目を満たさなければなりません。
但し以下のどちらかに該当する場合は、4番のみ満たせばよいこととなっています。
システムを使って電子取引データを保存する場合は、マニュアルの備え付けも必要です。もっとも、紙で印刷して保存する必要はありません。またマニュアルは、PDFのように1冊のドキュメントにまとまっている必要もありません。国税庁は整然とした形式かつ明瞭な状態で出力できるならば、オンラインマニュアルやオンラインヘルプでも可能としています。
紙の書類をスキャナ保存する場合は、書類を作成または受領してからおおむね7営業日以内に実施しなければなりません。但し事務処理規程で業務処理サイクルを定めている場合は、業務サイクルの期間(最長で2カ月)を経過後7営業日以内にスキャナ保存すれば問題ありません。
スキャナ保存する際には、以下に挙げる多くの要件を満たす必要があります。
スキャン後のデータは、以下の要件も満たさなければなりません。但し税務職員がダウンロードを求めた際に応じられる場合は、5番と6番の要件は満たす必要がありません。
契約書や納品書、請求書、領収書など、資金や物の流れに直結・連動する書類をスキャンする場合は、以下の要件も満たす必要があります。
見積書や注文書、検収書など資金や物の流れに直結・連動しない書類は、モノクロでの読み取りも可能です。
電子帳簿保存法が求める要件を見ると、受け取った電子データの保存方法は難しいと思った方も多いのではないでしょうか?電子データの保存にあたっては、簡単な方法も選べます。本記事「改ざんを防ぐ措置を取ること」で解説した方法のなかで、「不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を整備・運用して、索引簿を設ける」方法はコストがかからず楽に運用できます。この方法を選ぶ法人も多いでしょう。
ここからは4つのケースに分けて、受け取った電子データを正しく保存するポイントを解説します。
もしWebサイトから電子取引データをダウンロードできる場合は、まず内容が正しいことを確認してください。その後は索引簿に記入する、ファイル名をルールに沿ってつけるなど、電子取引データの保存に必要な対応を取りましょう。ファイルは1箇所にまとめて保存しておくと確認がしやすく、税務職員からの要求があった場合でも提示しやすくなるためおすすめです。
電子メールに取引情報が含まれる場合、保存すべきデータはどこにどのような内容が記載されているかにより変わります。
もし電子メール本文に取引情報が記載されている場合は、本文をPDFなど、ファイル管理ソフトによる検索が可能な方法で保存しなければなりません。一方で添付ファイルにのみ取引情報が記載されている場合は、添付ファイルのみ保存すればよいわけです。
取引情報が画面に表示されるサービスを使う場合は、PDFでの保存にこだわる必要はありません。ファイルの保存形式は定められていないため、画面のスクリーンショットも活用できます。保存する際は、取引に関する情報が含まれていることをご確認ください。
近年では受信したFAXを紙で出力する代わりにデータを作成し、フォルダへの振り分けを自動的に行えるサービスも登場しています。この場合も、受信したデータを保存すればよいわけです。オリジナルのデータをコピーして、電子取引データ専用のフォルダにまとめておきましょう。
電子帳簿保存法の改正による業務フローをどうすれば良いか、お悩みのご担当者様も多いのではないでしょうか?ここからは3つの業務別に、どのような業務フローで進めれば良いか解説します。
発行した、または受け取った電子取引データは、ファイルの状態での保管が必要です。すでに電子取引データの保管システムを導入している場合は、システムの取扱説明書に従って保管してください。
特に保管用のシステムを用意していない場合は、以下の手順で保存してください。
3番については、この後の「索引簿の作成やファイル名のつけ方をルール化して、検索条件を満たす」で解説します。
この業務については、特に変える点はありません。これまでどおりデータを会計システム等に入力すればよいわけです。仕訳帳や固定資産台帳など、主な帳票はPDFで出力しておくとよいでしょう。
スキャナ保存の要件は多数ありますが、業務フローはシンプルです。まず、紙の書類をスキャンしましょう。ファイルが生成されますので内容を確認のうえ、問題が無ければ所定の場所にデータを保存することとなります。
電子帳簿保存法への対応は、新たなシステム導入が必須とは限りません。法人が対応する方法は、大きく3つに分かれます。将来のシステム導入計画など、貴社の事情に合った方法を選んでください。
電子帳簿保存法への対応は特別なシステムが無くても、2つの要件を満たすことで対応できます。
それぞれ求められる内容を、確認していきましょう。
「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を定めて遵守することは、特別なシステム導入を行わずに電子帳簿保存法へ対応するうえで、求められる要件の一つです。
事務処理規程のサンプルは、国税庁の公式サイトからダウンロードできます。法人ごとに異なる部分を書き換えればよいため、どのように書けばよいか悩む必要はありません。まずは何が書かれているか、サンプルの内容を確認するところから始めるとよいでしょう。
索引簿の作成やファイル名のつけ方をルール化することは、検索条件を満たすうえで重要な要件です。どちらかの要件を満たせば、検索条件をクリアできます。
索引簿は、表により作成します。記入すべき項目は、以下の表を参考にしてください。
連番 | 日付 | 金額 | 取引先 | 備考 |
---|---|---|---|---|
① | 20240101 | 267 | (株)あいうえお商店 | 領収書 |
② | 20240104 | 220000 | (株)ぜごでにば建設 | 請求書 |
③ | 20240105 | 66000 | えけせてねシステム(株) | 注文書 |
支払や請求、注文などがあるたびに、連番を増やして記入します。なお書式は、国税庁の公式サイトでも公開されています。
索引簿を使わない場合は、ファイル名のルール化が必要です。以下の項目を含めてください。
一例として、「20240101_(株)あいうえお商店_267」が挙げられます。保存対象となる取引情報は、すべてのファイルについて同じルールを適用してください。ファイルごとに項目の順番が異なるといった名前の付け方をしてはいけません。
会計業務で作成する帳簿や書類の電子化は、電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを使うと良いでしょう。通常の経理業務を行えばよく、特別な対応は必要ないことはメリットです。但し初期費用に加えて、一定のランニングコストがかかることは注意してください。
最近では、クラウドで利用可能なサービスも広く活用されています。すでに会計ソフトを活用中の場合は、念のため電子帳簿保存法に対応済みであることを確認してください。
紙の書類を電子化して管理方法を電子ファイルで統一したい場合は、スキャナ保存に対応するシステムの導入が求められます。要件は数多くありますが、「電子帳簿保存法に対応済み」のシステムを選べば問題ありません。もし自社で開発する、またはオリジナルのシステム開発を依頼する場合は、「紙の書類をスキャナ保存する場合の要件」を満たすシステムを作る必要があります。
何らかの電子データを扱う法人は、電子帳簿保存法に対応しなければなりません。一方で対応する方法は、複数あります。まだ対応が済んでいない場合は貴社の事情や今後の設備投資計画などを踏まえたうえで、早めに最適な方法を選びましょう。
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